【完結】幽霊彼女と後悔探しの旅

よーじろー

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五章

五十話

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 変化が現れ始めたのは虎之助が呟き始めておよそ三分が経った時だった。
 虎之助の隣で宙に浮いていた美波の透明度が少しずつ消え、体は地面に近づいてくる。足が完全に地面に着く時には、すでに体は生前と何ら変わらない姿になっていた。
 依然としてぶつぶつと唱え続ける虎之助の横で美波は自分の手を見て、握ったり開いたりを繰り返す。そして、自分の全身を触りながらその感触を確かめる。頬を軽く叩くと若干の痛みを感じる。その場で軽くジャンプしてみるとそのまま浮くことがない。息を深く吸い、ゆっくり吐き出す。木々の匂いや口腔内に通る風がひんやりとして気持ち良い。
 
 ――…………私、生き返ったの?
 
 徐々に湧いてくる実感に嬉しさというより戸惑いの方が強かった。
「…………美波君」
 斎藤先生が美波の右手を包み込むように優しく触る。
「無事に生き返ったんだね」
「わ、私は……」
 混乱した頭のピースを合わせようと必死に回転させるが、考えれば考えるほどそのピースは正解から遠ざかっていく。
 
 ――……どうした、どうした、どうした……早く、早く、早く……。
 
 まとまらない思考は更なる混乱を生み助長させる。
 悪循環だった。
「ちょっと、先生、話が違うじゃないですか⁉」
 虎之助がぶつぶつと唱えることを止め、焦った様子で斎藤先生に詰め寄る。
「いいや。これでいい」
「何がいいんですか⁉ これをすれば八千代を桜井美波の体に降ろせるって言うから、やったのに……生き返るなんて聞いてませんよ! まさか、俺を騙したんですか⁉」
 虎之助が激昂するが、斎藤先生は虎之助の肩に手を置きそれを冷静にいなす。
「まあまあ、少し落ち着きなさい」
 斎藤先生が肩をぽんぽんと叩くごとに虎之助の熱量が下がっていく。
 虎之助の心がまるで魔法でもかけられているかのように静まり、心なし体が小さくなったようにさえ感じる。
 虎之助が落ち着いたのを見計らって、斎藤先生はおもむろに内ポケットに手を入れる。
 ゆっくり取り出すと、手に持つ物の先端を虎之助に向ける。
「えっ、せ、先生……」
 向けられた物に虎之助が言葉を失う。

「虎之助君……悪いが、ここで死んでくれ」

 斎藤先生が右手で構えながら、左手で眼鏡のブリッジを触る。
 コンパクトではあったが、間違いなくそれは拳銃だった。
 虎之助が一歩後ずさりする。
「先生、意味が分からないのですが……どういうことですか?」
 ぐるぐると回る頭をさらに回転させるが、それでも虎之助の理解が追い付くことはなかった。
「単刀直入に言おう」
 変わらない声量と声質で続ける。

「君の願いはもう叶わない」

 斎藤先生が銃口を虎之助に向けたままはっきりと言う。
 その言葉が虎之助の頭に入り、何度も反芻させる。
 理解しようとしているが、無意識の内にそれを拒んでいる虎之助がそこにはいた。
 
 ――出来ることならば、嘘であってくれ。先生に拳銃を向けられていることも含めて、俺を驚かすための演出であると言ってくれ。……じゃないのであれば、俺は今まで何をしていたというのだ……。

「分かりやすく言うとだね、君みたいに成仏していない魂ならまだ可能性はあるが、一度成仏し、生まれ変わった魂を呼び戻すことは無理だ。というより、そもそも生まれ変わった時点で八千代君の魂ではない」
 先生が饒舌に説明する間、虎之助の思考はここになかった。
 一縷の望みに縋り付いた挙句、その望みさえも結局は最初から叶わない望みだった。
 
 ――ああ、俺はもう八千代には会えないんだ……俺の二百年以上の時間は無駄だったのか……。
 
 虎之助の瞳から涙が落ちる。
「君は本当によくやってくれた。まあ、正確には君と大雅君の二人になるんだが……その二人が美波君を繋ぎ止めておいてくれたおかげで、大事に至らずに済みそうだよ」
 斎藤先生が右の口角だけを器用に上げる。
 真夜中の公園で少ない外灯の中、浮かべるその笑みは想像以上に気味が悪く、そして気持ち悪かった。
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