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五章
四十九話
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その日の夜、美波と虎之助は近くの公園に来ていた。
前世の魂を降ろすために必要なことだ、と虎之助は言うが、美波にはさっぱり分からなかった。
どうして公園じゃないといけないのか。
どうして夜じゃないといけないのか。
どうして……斎藤先生がこちらに向かってきているのか。
『あの、いろいろと気になることがあるんですが……いいですか?』
美波がベンチに座りミネラルウォータ―を口に含む虎之助に訊く。
「ん? 何だ? あっ、これならあげないぞ」
虎之助は逆の手に持つ肉まんを胸元に引き寄せる。
『いや、いりませんよ』
美波は心底辟易しながら言う。
そして、公園の入り口から歩いてくる斎藤先生に視線を移す。
銀縁の眼鏡に白髪混じりの頭髪、皺と染みが増えた顔。
美波が診察を受けていた頃と比べると、一段と老けたような印象を受ける。
『どうして、斎藤先生がここにいるんですか?』
「勿論。八千代の魂を降ろすのに協力してもらうからだ」
虎之助は口一杯に肉まんを頬張りながら、自信たっぷりに言う。
不思議なほどの自信に一瞬、美波は取り込まれかけるが、すぐに我に返る。
『それは分かります。私はその理由を訊いてるんですよ』
「安心しろ。誰にも危害は加えない。色々と疑問はあると思うが……まあ、見てろって」
そう言って、虎之助がベンチから立ち、斎藤先生を出迎える。
「ご無沙汰しています。急に呼び出してすみませんでした」
斎藤先生は虎之助の前に来ると、少し安心したように頬を緩ませながら言う。
「大丈夫だよ。丁度、私も北条……いや、虎之助君に今回の件を進めようと言おうとしていたところだったからね」
口角を上げ目を細めると、顔の皺がより強調される。
「それより、心の準備は大丈夫かね?」
斎藤先生はそう言って虎之助に鋭い眼光を向ける。
「ええ、大丈夫ですよ」
虎之助が覚悟を決めた表情で返す。
「それなら結構。それと……」
そう言って、斎藤先生が周りをきょろきょろと見回す。
「美波君は今どこにいるんだい?」
――……まあ、それもそうよね。
美波は驚くことなく小さく息を吐く。
虎之助と斎藤先生が知り合いであり、協力者である時点で虎之助のことは勿論、美波のことについても知っているのは当然だった。
「桜井美波であれば、こっちに……」
虎之助がそう言い、右斜め上にいる美波に視線をやる。
それに倣って斎藤先生も視線をその方向にやるが、見えていないのか、美波と目は合わない。
「その辺にいるのか……美波君、聞こえているかい?」
『はい。聞こえていますよ』
「…………」
美波が答えるが、斎藤先生からの返事はない。
「…………虎之助君、美波君は何か言っているかい?」
「聞こえているそうですよ」
斎藤先生には姿はおろか、声さえも届いていないようだった。
しかし、それを斎藤先生は気にすることもなく続ける。
「そうか。本当にいるかどうかを私の目で確認できないのが残念ではあるが……それもすぐに……まあ、いい。早速始めようか」
そう言うと背負っていたリュックサックから小瓶を取り出す。
そして、それを虎之助が座っていたベンチの上に乗せる。
小瓶の中に何かが入っているのは確認できたが、美波にはそれが何かまでは把握できなかった。
虎之助はその小瓶の前に立つと、目を瞑り胸の前で手を合わせる。同時に何かを小さく呟き始めた。
近くにいてもはっきりと聞き取れないほど小さい言葉だが、それがお経や念仏の類であることはかろうじて理解できた。
ただでさえ少ない外灯が、ぱちぱちという音を立てながら消えたり着いたりを繰り返している。
すっかり冷え込んだ空気の中、追い打ちをかけるように吹く風が虎之助の声を掻き消す。
『虎之助さん、何をしているの?』
心配になった美波が声をかけるが、虎之助は微動だにせず、言葉を落とすことを止めない。
前世の魂を降ろすために必要なことだ、と虎之助は言うが、美波にはさっぱり分からなかった。
どうして公園じゃないといけないのか。
どうして夜じゃないといけないのか。
どうして……斎藤先生がこちらに向かってきているのか。
『あの、いろいろと気になることがあるんですが……いいですか?』
美波がベンチに座りミネラルウォータ―を口に含む虎之助に訊く。
「ん? 何だ? あっ、これならあげないぞ」
虎之助は逆の手に持つ肉まんを胸元に引き寄せる。
『いや、いりませんよ』
美波は心底辟易しながら言う。
そして、公園の入り口から歩いてくる斎藤先生に視線を移す。
銀縁の眼鏡に白髪混じりの頭髪、皺と染みが増えた顔。
美波が診察を受けていた頃と比べると、一段と老けたような印象を受ける。
『どうして、斎藤先生がここにいるんですか?』
「勿論。八千代の魂を降ろすのに協力してもらうからだ」
虎之助は口一杯に肉まんを頬張りながら、自信たっぷりに言う。
不思議なほどの自信に一瞬、美波は取り込まれかけるが、すぐに我に返る。
『それは分かります。私はその理由を訊いてるんですよ』
「安心しろ。誰にも危害は加えない。色々と疑問はあると思うが……まあ、見てろって」
そう言って、虎之助がベンチから立ち、斎藤先生を出迎える。
「ご無沙汰しています。急に呼び出してすみませんでした」
斎藤先生は虎之助の前に来ると、少し安心したように頬を緩ませながら言う。
「大丈夫だよ。丁度、私も北条……いや、虎之助君に今回の件を進めようと言おうとしていたところだったからね」
口角を上げ目を細めると、顔の皺がより強調される。
「それより、心の準備は大丈夫かね?」
斎藤先生はそう言って虎之助に鋭い眼光を向ける。
「ええ、大丈夫ですよ」
虎之助が覚悟を決めた表情で返す。
「それなら結構。それと……」
そう言って、斎藤先生が周りをきょろきょろと見回す。
「美波君は今どこにいるんだい?」
――……まあ、それもそうよね。
美波は驚くことなく小さく息を吐く。
虎之助と斎藤先生が知り合いであり、協力者である時点で虎之助のことは勿論、美波のことについても知っているのは当然だった。
「桜井美波であれば、こっちに……」
虎之助がそう言い、右斜め上にいる美波に視線をやる。
それに倣って斎藤先生も視線をその方向にやるが、見えていないのか、美波と目は合わない。
「その辺にいるのか……美波君、聞こえているかい?」
『はい。聞こえていますよ』
「…………」
美波が答えるが、斎藤先生からの返事はない。
「…………虎之助君、美波君は何か言っているかい?」
「聞こえているそうですよ」
斎藤先生には姿はおろか、声さえも届いていないようだった。
しかし、それを斎藤先生は気にすることもなく続ける。
「そうか。本当にいるかどうかを私の目で確認できないのが残念ではあるが……それもすぐに……まあ、いい。早速始めようか」
そう言うと背負っていたリュックサックから小瓶を取り出す。
そして、それを虎之助が座っていたベンチの上に乗せる。
小瓶の中に何かが入っているのは確認できたが、美波にはそれが何かまでは把握できなかった。
虎之助はその小瓶の前に立つと、目を瞑り胸の前で手を合わせる。同時に何かを小さく呟き始めた。
近くにいてもはっきりと聞き取れないほど小さい言葉だが、それがお経や念仏の類であることはかろうじて理解できた。
ただでさえ少ない外灯が、ぱちぱちという音を立てながら消えたり着いたりを繰り返している。
すっかり冷え込んだ空気の中、追い打ちをかけるように吹く風が虎之助の声を掻き消す。
『虎之助さん、何をしているの?』
心配になった美波が声をかけるが、虎之助は微動だにせず、言葉を落とすことを止めない。
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