【完結】幽霊彼女と後悔探しの旅

よーじろー

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五章

五十八話

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 地面に突っ伏したままの大雅。
 それを歪んだ笑顔で見下し、拳銃を突き付ける斎藤先生。
 一発目はすでに放たれており、銃口から広がる煙の中心にある弾丸は確実に大雅に向かっていた。
 暗闇の世界から解放された美波の眼前に広がる光景は先程と同じだった。
 音と匂いが戻ってくる。
 止まっていた時間が動き出すまさにその瞬間だった。
 大雅の体がゆっくりと体一つ分だけ左に動いた。
 それはまるで誰かが大きな岩を動かすかのようであり、見えない力が働いていることは明白だった。
 
 ――これが、虎之助さんの言っていたことか!
 
 そんなことを考えながら、頭を擦り切れるくらい思い切り回転させる。
 
 ――もう時間に猶予はない! 早くどうするか決めないと!
 
 逸る気持ちを抑えるが、どうしたって良案は思いつかない。
 そして、無情にも止まっていた時間が動き出す。
 放たれた銃弾が大雅の体を紙一重で外れ、地面にめり込む。
「んなっ!」
 斎藤先生が目を見開き、声を漏らす。
 その表情からは驚きとともに不安が露見していた。
 そんな先生を尻目に美波が大雅を仰向けにし、肩を揺する。
「大雅! 起きて! ねえ! 起きて! 大雅!」
 同時に声の限りを尽くして叫ぶが、大雅が目を覚ます気配はない。
 ぐったりと倒れたまま息をしているのかも怪しい状態に美波は焦りを隠せない。
 
 ――大雅が眠ったままでは、やれることは限られてくる。
 
 そう思い肩を揺すり続けるが、一向に大雅が目を覚ます様子はない。
 斎藤先生は余程外れたのが信じられないようで、慌てた様子を隠せない。
 撃鉄にかけた親指は震えており何度も落そうと試みるが、試みればみるほど手にかかる力は過剰になり、余計上手く落とすことが出来なくなる。
「大雅! 起きて! 大雅! 起きてってば!」
 外灯が疎らにあるだけの薄暗い公園の中で美波は声を張り続ける。
 しかし、美波の声は大雅に届いてはおらず、反応することはない。
 それどころか体を揺すろうが頬を打とうが大雅の反応は皆無だった。
 
 ――どうすれば大雅を起こすことが出来る……どうすれば、どうすれば、どうすれば……。
 
 焦る気持ちが空回りし、思考はまとまらない。
 大雅の胸に顔を埋める。
 強く目を瞑ると端から涙が零れてくる。
 虎之助さんが自分の魂をかけてでもくれた好機に何もできない不甲斐なさが美波を蝕んでいた。
 毒のようにじわりと広がるそれを止めることは出来ないのだろうか。
 その時、ふとある瞬間が美波の頭を過る。
 それは美波と大雅が付き合う前の出来事であった。

 〝美波はさ、もし僕があそこで寝ている人みたいに何をしても起きないし、何をしても動かなくなったらどうする?〟
 〝……どうしたの? 急に。何かあった?〟
 〝いや、ふと思っただけで、深い意味はないよ。で、どうする?〟
 〝とりあえず体をめちゃくちゃ揺すって、顔が真ん丸に腫れるくらいビンタをする〟
 〝ちょ、ちょっと!〟
 〝ふふふ、冗談だよ。うーん、そうだな……って、それ、もしかして白雪姫?〟
 〝そう。まさに昨日、実写化されたやつを観に行って、それで〟
 〝え⁉ 観に行っちゃったの⁉ 一緒に行くって言ってたじゃん!〟
 〝い、いや、美波、隣のクラスの加藤(かとう)さんと一緒に行くって言ってたじゃん〟
 〝先週まではそうだったけど、急にバイト入っちゃって行けなくなったから、一緒に行こって連絡したじゃん〟
 〝…………え、そうだったっけ?〟
 〝そうだったよ! あーあ、一緒に観に行きたかったのにな……〟
 〝…………ごめん〟
 〝そんなんじゃ、大雅がそんな状態になってもキスで起こしてなんてあげないからね〟
 〝えー……じゃあ、僕、眠ったままか……〟
 〝……ふふふ、嘘。分かった。じゃあ、大雅が小説家になったら、一日映画館を貸し切りにして。そこで見たい映画を思い切り観るの。それで許してあげる〟
 〝何それ? 何年かかるか分からないし、なれるかどうかも分からないよ〟
 〝それでいいの。それに大雅だったら絶対になれるよ。私が保証する〟
 〝それは頼もしいね〟
 〝でしょう〟

 それはややもすれば微笑ましい光景であった。
 どこから引き出されたのか、美波本人にも分からない。
 しかし、今この状況で思い出すということはまさに天啓と言わざるを得なかった。
 全身の力を失い仰向けに倒れる大雅の顔を直視する。
 
 ――こんなことで起きるなんて端から私も思っていない。……でも……それでも、これに一パーセントでも可能性があるのなら、私はそれに賭けてみたい。
 
 〝キスをして、魔法にかかった恋人を起こすことが出来る〟

 小学生でもそれが作り話であることを知っている。
 しかし、美波は徹頭徹尾本気だった。
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