61 / 70
五章
六十一話
しおりを挟む
「ずいぶん待たせたみたいだね」
そう言う大雅の体を包む光が徐々に収まっていき、薄暗さが戻る。
申し訳なさそうな表情を浮かべる大雅に美波の張り詰めていた緊張の糸が弛む。
「……ほんとだよ」
弛緩した頬に温かい涙が流れる。
今日だけですでに大量の涙を流した。
しかし、それでもなお、瞳が枯れることはない。
自分の体のどこにそんなに貯蔵されているのか、と不思議になるくらい無限に溢れ出てくる。
流れた涙が顎を伝い落ちるが、地面に着くその途中で霧散する。
「だから……私、もうこんなになっちゃった」
そう言って美波が泣きながら笑顔を作る。
大雅が改めて美波の体を見ると、もう胸から上しか残っていなかった。
「…………ごめん」
大雅が眉尻を下げ、沈んだ声を出す。
「大丈夫だよ。まあ、どっちにしろタイムリミットはあったしね」
「いや、それもそうだけど……僕は、また君を守れなかった」
表情をそのままに大雅が俯きながら言葉を落とす。
申し訳ない気持ちと消えゆく美波を直視出来なかった。
「……顔を上げて、大雅」
その言葉に大雅は一度下唇を噛みしめる。
美波に残された時間はあと数十秒といったところだった。
これから交わす言葉が美波と交わす最後の言葉になるだろう、ということは大雅も理解していた。
理解している分だけ、余計美波と話したくなかった。
――これから先一言も話さなくても、一度も顔を合わせなくても、もしそれで美波が現世にいてくれるのであればそれでいい。
それが大雅のエゴであることは分かっていたが、それでも自分の思いを押し堪えることは出来なかった。
「……大雅、そのままで聞いて」
美波が大雅の耳元で囁くように言う。
「斎藤先生が私を轢き殺した張本人。それを知る人を全て消して無かったことにしようとしている。大雅は次に放たれる銃弾何とか防いで。そうすれば助かるから。大雅なら出来る。分かった?」
耳を疑うような事実に大雅は驚愕を隠せない。
――理解できないことは多い……でも、それは本当なのだろう。
体を動かすことなく、顎を軽く引く。
「よし。じゃあ」
そう言って、美波が大雅の耳元から離れる。
大雅が改めて美波を見ると、いつもと同じように優しく微笑んではいるが、胸はすでに消えており、肩から首にかけて透明になっていた。
「最後に……大雅は、まだ私のことを好きでいてくれる?」
「勿論! いつだって美波のことが好きだよ! だから」
「水族館ではごめん! あの時は勢いで言っちゃったけど、私は本当に大雅に感謝してる! 生まれてきてくれてありがとう! 私を好きになってくれてありがとう! 私と一緒にいてくれて本当にありがとう!」
美波が大雅の言葉を遮って声を張る。
「だから、大雅はこの後の人生を目一杯生きて。私が嫉妬するくらい……やり切ってよ」
大雅の瞳から堪え切れなくなった涙が零れる。
「それでいつか大雅がこっちに来た時、私に教えてよ。それまで上からずっと待ってるから」
「美波! 僕は」
「絶対に幸せになってね!」
その言葉を最後に美波が消えた。
大雅が美波の顔に手を伸ばすが、それが届くことはなく、薄暗くなっている周囲に光の粒子をばらまきながら消えていった。
美波の後悔はなくなり、現世に留まる理由がなくなったのだ。
当然、もう二度と現れることはないだろう。
そう言う大雅の体を包む光が徐々に収まっていき、薄暗さが戻る。
申し訳なさそうな表情を浮かべる大雅に美波の張り詰めていた緊張の糸が弛む。
「……ほんとだよ」
弛緩した頬に温かい涙が流れる。
今日だけですでに大量の涙を流した。
しかし、それでもなお、瞳が枯れることはない。
自分の体のどこにそんなに貯蔵されているのか、と不思議になるくらい無限に溢れ出てくる。
流れた涙が顎を伝い落ちるが、地面に着くその途中で霧散する。
「だから……私、もうこんなになっちゃった」
そう言って美波が泣きながら笑顔を作る。
大雅が改めて美波の体を見ると、もう胸から上しか残っていなかった。
「…………ごめん」
大雅が眉尻を下げ、沈んだ声を出す。
「大丈夫だよ。まあ、どっちにしろタイムリミットはあったしね」
「いや、それもそうだけど……僕は、また君を守れなかった」
表情をそのままに大雅が俯きながら言葉を落とす。
申し訳ない気持ちと消えゆく美波を直視出来なかった。
「……顔を上げて、大雅」
その言葉に大雅は一度下唇を噛みしめる。
美波に残された時間はあと数十秒といったところだった。
これから交わす言葉が美波と交わす最後の言葉になるだろう、ということは大雅も理解していた。
理解している分だけ、余計美波と話したくなかった。
――これから先一言も話さなくても、一度も顔を合わせなくても、もしそれで美波が現世にいてくれるのであればそれでいい。
それが大雅のエゴであることは分かっていたが、それでも自分の思いを押し堪えることは出来なかった。
「……大雅、そのままで聞いて」
美波が大雅の耳元で囁くように言う。
「斎藤先生が私を轢き殺した張本人。それを知る人を全て消して無かったことにしようとしている。大雅は次に放たれる銃弾何とか防いで。そうすれば助かるから。大雅なら出来る。分かった?」
耳を疑うような事実に大雅は驚愕を隠せない。
――理解できないことは多い……でも、それは本当なのだろう。
体を動かすことなく、顎を軽く引く。
「よし。じゃあ」
そう言って、美波が大雅の耳元から離れる。
大雅が改めて美波を見ると、いつもと同じように優しく微笑んではいるが、胸はすでに消えており、肩から首にかけて透明になっていた。
「最後に……大雅は、まだ私のことを好きでいてくれる?」
「勿論! いつだって美波のことが好きだよ! だから」
「水族館ではごめん! あの時は勢いで言っちゃったけど、私は本当に大雅に感謝してる! 生まれてきてくれてありがとう! 私を好きになってくれてありがとう! 私と一緒にいてくれて本当にありがとう!」
美波が大雅の言葉を遮って声を張る。
「だから、大雅はこの後の人生を目一杯生きて。私が嫉妬するくらい……やり切ってよ」
大雅の瞳から堪え切れなくなった涙が零れる。
「それでいつか大雅がこっちに来た時、私に教えてよ。それまで上からずっと待ってるから」
「美波! 僕は」
「絶対に幸せになってね!」
その言葉を最後に美波が消えた。
大雅が美波の顔に手を伸ばすが、それが届くことはなく、薄暗くなっている周囲に光の粒子をばらまきながら消えていった。
美波の後悔はなくなり、現世に留まる理由がなくなったのだ。
当然、もう二度と現れることはないだろう。
0
あなたにおすすめの小説
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~
水無月礼人
恋愛
私は冒険者ギルド職員ロックウィーナ。25歳の女で担当は回収役。冒険者の落し物、遺品、時には冒険者自体をも背負います!
素敵な恋愛に憧れているのに培われるのは筋肉だけ。
しかし無駄に顔が良い先輩と出動した先で、行き倒れた美形剣士を背負ってから私の人生は一変。初のモテ期が到来です!!
……とか思ってウハウハしていたら何やら不穏な空気。ええ!?
私の選択次第で世界がループして崩壊の危機!? そんな結末は認めない!!!!
※【エブリスタ】でも公開しています。
【エブリスタ小説大賞2023 講談社 女性コミック9誌合同マンガ原作賞】で優秀作品に選ばれました。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
お前が欲しくて堪らない〜年下御曹司との政略結婚
ラヴ KAZU
恋愛
忌まわしい過去から抜けられず、恋愛に臆病になっているアラフォー葉村美鈴。
五歳の時の初恋相手との結婚を願っている若き御曹司戸倉慶。
ある日美鈴の父親の会社の借金を支払う代わりに美鈴との政略結婚を申し出た慶。
年下御曹司との政略結婚に幸せを感じることが出来ず、諦めていたが、信じられない慶の愛情に困惑する美鈴。
慶に惹かれる気持ちと過去のトラウマから男性を拒否してしまう身体。
二人の恋の行方は……
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜
侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」
十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。
弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。
お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。
七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!
以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。
その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。
一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。
マチ恋 ―君に捧げるLove song― 一夜の相手はスーパースター。誰にも言えない秘密の恋。【完結】
remo
恋愛
あなたにとっては遊びでも、私にとっては、…奇跡の夜だった。
地味で平凡で取り柄のない私に起きた一夜のキセキ。
水村ゆい、23歳、シングルマザー。
誰にも言えないけど、愛息子の父親は、
今人気絶頂バンドのボーカルなんです。
初めての恋。奇跡の恋。離れ離れの恋。不倫の恋。一途な恋。最後の恋。
待っている…
人生で、一度だけの恋。
【完結】ありがとうございました‼︎
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる