【完結】幽霊彼女と後悔探しの旅

よーじろー

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五章

六十一話

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「ずいぶん待たせたみたいだね」
 そう言う大雅の体を包む光が徐々に収まっていき、薄暗さが戻る。
 申し訳なさそうな表情を浮かべる大雅に美波の張り詰めていた緊張の糸が弛む。
「……ほんとだよ」
 弛緩した頬に温かい涙が流れる。
 今日だけですでに大量の涙を流した。
 しかし、それでもなお、瞳が枯れることはない。
 自分の体のどこにそんなに貯蔵されているのか、と不思議になるくらい無限に溢れ出てくる。
 流れた涙が顎を伝い落ちるが、地面に着くその途中で霧散する。
「だから……私、もうこんなになっちゃった」
 そう言って美波が泣きながら笑顔を作る。
 大雅が改めて美波の体を見ると、もう胸から上しか残っていなかった。
「…………ごめん」
 大雅が眉尻を下げ、沈んだ声を出す。
「大丈夫だよ。まあ、どっちにしろタイムリミットはあったしね」
「いや、それもそうだけど……僕は、また君を守れなかった」
 表情をそのままに大雅が俯きながら言葉を落とす。
 申し訳ない気持ちと消えゆく美波を直視出来なかった。
「……顔を上げて、大雅」
 その言葉に大雅は一度下唇を噛みしめる。
 美波に残された時間はあと数十秒といったところだった。
 これから交わす言葉が美波と交わす最後の言葉になるだろう、ということは大雅も理解していた。
 理解している分だけ、余計美波と話したくなかった。
 
 ――これから先一言も話さなくても、一度も顔を合わせなくても、もしそれで美波が現世にいてくれるのであればそれでいい。
 
 それが大雅のエゴであることは分かっていたが、それでも自分の思いを押し堪えることは出来なかった。
「……大雅、そのままで聞いて」
 美波が大雅の耳元で囁くように言う。
「斎藤先生が私を轢き殺した張本人。それを知る人を全て消して無かったことにしようとしている。大雅は次に放たれる銃弾何とか防いで。そうすれば助かるから。大雅なら出来る。分かった?」
 耳を疑うような事実に大雅は驚愕を隠せない。
 
 ――理解できないことは多い……でも、それは本当なのだろう。
 
 体を動かすことなく、顎を軽く引く。
「よし。じゃあ」
 そう言って、美波が大雅の耳元から離れる。
 大雅が改めて美波を見ると、いつもと同じように優しく微笑んではいるが、胸はすでに消えており、肩から首にかけて透明になっていた。
「最後に……大雅は、まだ私のことを好きでいてくれる?」
「勿論! いつだって美波のことが好きだよ! だから」

「水族館ではごめん! あの時は勢いで言っちゃったけど、私は本当に大雅に感謝してる! 生まれてきてくれてありがとう! 私を好きになってくれてありがとう! 私と一緒にいてくれて本当にありがとう!」

 美波が大雅の言葉を遮って声を張る。
「だから、大雅はこの後の人生を目一杯生きて。私が嫉妬するくらい……やり切ってよ」
 大雅の瞳から堪え切れなくなった涙が零れる。
「それでいつか大雅がこっちに来た時、私に教えてよ。それまで上からずっと待ってるから」
「美波! 僕は」

「絶対に幸せになってね!」
 
 その言葉を最後に美波が消えた。
 大雅が美波の顔に手を伸ばすが、それが届くことはなく、薄暗くなっている周囲に光の粒子をばらまきながら消えていった。
 美波の後悔はなくなり、現世に留まる理由がなくなったのだ。
 当然、もう二度と現れることはないだろう。
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