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五章
六十二話
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美波が車に轢かれそのまま命を落とした時、大雅は伝えたいことを言えなかった。
最後は美波に自分の思いを伝え、胸の中のもやもやとした蟠りを払いたかったのに、伝えられなかった。
そんな美波が幽霊として現れた。
大雅は自分の幸運に感謝し、今度こそ絶対に美波に自分の思いを伝えよう。
そう心に決めた。
しかし、その機会も今や露と消えてしまった。
――美波はずるいよ。僕だって、美波に伝えたいことがあったのに、自分だけ言って消えちゃうなんて……。
そう思うと辛く悲しい気持ちを抑えられないが、それよりも美波の思いを無為にすることの方が大雅にとって何よりも辛かった。
「ようやく美波君が消えたみたいだね」
操作していたスマートフォンをポケットにしまい、大業に溜息を吐く。
「……美波を轢き殺したのは、お前なんだってな」
大雅が涙に濡れる瞳をそのままに斎藤先生を睨む。
「それにしてもさっきの光はなんだったんだ? 不意打ちは反則だよな」
「お前は……絶対に許さない」
「ああ、安心していいよ。君もすぐに美波君のもとに送ってあげるから」
大雅が眉間に皺を寄せ、右手を握りこむ。
斎藤先生は拳銃を拾い、それを躊躇いもなく大雅に向ける。
それぞれがそれぞれの思いを持って言葉を発し行動するが、それが交差することはない。
どこまでいっても分かり合えることはなく、平行線のままなのである。
「虎之助君は消えた。美波君も同様。ここに残されたのは君だけだ。ということは、君を消せばもう誰も真実を知る人はいない」
斎藤先生が大雅を見据え、ゆっくりと撃鉄を降ろす。実に落ち着いていて先程の慌て様が嘘のようである。
「ひとつ教えてくれ。美波を殺したことに罪悪感はないのか?」
沸々と湧きあがる怒りを内に抑えながら、大雅が斎藤先生に訊く。
「何を言ってるんだ? そんなものがあるなら、とっくに自首してるよ。第一、あれは美波君が不用意に飛び出して来たのが原因であって、私に非はないだろう」
斎藤先生が表情を歪め、憎悪を露わにする。
悪びれる様子は全くない。それどころか、責任を転嫁する始末である。
――自分がしたことの重大さが全く分かっていない。もはやこの人に何を言っても無駄なのだろう。
まさに殺されるかもしれないこの状況において、大雅は驚くほど冷静だった。
心臓の鼓動。
肺の膨らみ。
筋肉の緊張。
そのどれもが意識しなくても手に取るように分かる。
死を直前にして走馬灯を見るということをよく耳にするが、不思議と大雅がそういったものを見たり感じたりすることはなかった。
「……僕なら、出来る……」
「ん? 何をぶつぶつ言ってるんだ?」
「……美波が、そう言ってくれた……大丈夫……」
大雅が目を閉じ自分に言い聞かせるように呟く。
斎藤先生がひとつ深い溜息を吐く。
「あのさ、もうこれ以上君と話をするつもりはないんだ。いい加減、さっさと死んでくれ」
斎藤先生が引き金に力を込める。
その刹那、大雅が俯いていた顔を上げる。
――――パンッ!
静かな夜に乾いた音が木霊する。
その銃弾が大雅を貫き、絶命する……本来であればそうなるはずだったのだが、銃弾が大雅の体を貫くことはなかった。
最後は美波に自分の思いを伝え、胸の中のもやもやとした蟠りを払いたかったのに、伝えられなかった。
そんな美波が幽霊として現れた。
大雅は自分の幸運に感謝し、今度こそ絶対に美波に自分の思いを伝えよう。
そう心に決めた。
しかし、その機会も今や露と消えてしまった。
――美波はずるいよ。僕だって、美波に伝えたいことがあったのに、自分だけ言って消えちゃうなんて……。
そう思うと辛く悲しい気持ちを抑えられないが、それよりも美波の思いを無為にすることの方が大雅にとって何よりも辛かった。
「ようやく美波君が消えたみたいだね」
操作していたスマートフォンをポケットにしまい、大業に溜息を吐く。
「……美波を轢き殺したのは、お前なんだってな」
大雅が涙に濡れる瞳をそのままに斎藤先生を睨む。
「それにしてもさっきの光はなんだったんだ? 不意打ちは反則だよな」
「お前は……絶対に許さない」
「ああ、安心していいよ。君もすぐに美波君のもとに送ってあげるから」
大雅が眉間に皺を寄せ、右手を握りこむ。
斎藤先生は拳銃を拾い、それを躊躇いもなく大雅に向ける。
それぞれがそれぞれの思いを持って言葉を発し行動するが、それが交差することはない。
どこまでいっても分かり合えることはなく、平行線のままなのである。
「虎之助君は消えた。美波君も同様。ここに残されたのは君だけだ。ということは、君を消せばもう誰も真実を知る人はいない」
斎藤先生が大雅を見据え、ゆっくりと撃鉄を降ろす。実に落ち着いていて先程の慌て様が嘘のようである。
「ひとつ教えてくれ。美波を殺したことに罪悪感はないのか?」
沸々と湧きあがる怒りを内に抑えながら、大雅が斎藤先生に訊く。
「何を言ってるんだ? そんなものがあるなら、とっくに自首してるよ。第一、あれは美波君が不用意に飛び出して来たのが原因であって、私に非はないだろう」
斎藤先生が表情を歪め、憎悪を露わにする。
悪びれる様子は全くない。それどころか、責任を転嫁する始末である。
――自分がしたことの重大さが全く分かっていない。もはやこの人に何を言っても無駄なのだろう。
まさに殺されるかもしれないこの状況において、大雅は驚くほど冷静だった。
心臓の鼓動。
肺の膨らみ。
筋肉の緊張。
そのどれもが意識しなくても手に取るように分かる。
死を直前にして走馬灯を見るということをよく耳にするが、不思議と大雅がそういったものを見たり感じたりすることはなかった。
「……僕なら、出来る……」
「ん? 何をぶつぶつ言ってるんだ?」
「……美波が、そう言ってくれた……大丈夫……」
大雅が目を閉じ自分に言い聞かせるように呟く。
斎藤先生がひとつ深い溜息を吐く。
「あのさ、もうこれ以上君と話をするつもりはないんだ。いい加減、さっさと死んでくれ」
斎藤先生が引き金に力を込める。
その刹那、大雅が俯いていた顔を上げる。
――――パンッ!
静かな夜に乾いた音が木霊する。
その銃弾が大雅を貫き、絶命する……本来であればそうなるはずだったのだが、銃弾が大雅の体を貫くことはなかった。
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