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一章
一話
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北条大雅は新幹線と電車を乗り継いで都心から二時間ほど離れたとある田舎に来ていた。
無人駅を降りると食堂に喫茶店、床屋、本屋、コンビニなどが建ち並んではいるが、お世辞にも繁盛しているようには見えない。車の通る音と風で葉が擦れる音、若く青い木々の匂いだけがそこの全てだった。
午後四時三十分。
通夜まであと一時間近くはある。
ここから歩いて五分程度で着く距離に式場があるので時間に余裕はあるが、かといってやることもない。
胸を大きく開き、息をゆっくり吸い込むとそれを一気に吐き出す。
そうすると自分の中に溜まった異物だけが都合よく吐き出せている感覚がして気持ちが良い。
十月だというのに依然として暑さは引かず、じめじめとした空気が漂う。
もうすぐ沈む太陽が最後の悪足掻きとばかりに大雅の瞳を刺激する。最近は特に籠って作業することが多かったので、目に突き刺さる日差しが余計に痛い。
普段はコンビニや本屋のアルバイトを掛け持ちして日銭を稼いでいるフリーターだが、時間がある時は小さい頃からの夢である小説家になる為、執筆活動をしている。
何度も新人賞に応募したりネットに投稿したり、時には知り合いの編集者に原稿を読んでもらったりしてはいるが、箸にも棒にも引っかからない。
――ここまでやっても駄目なんだ。やはり僕には才能がないのかもしれない。今からでもいいから手に職をつけようかな……。
そう思い何度も諦めようとしたが、その都度、彼女は叱咤激励してくれた。
〝その程度で何言ってるの! 大雅の良いところは諦めの悪いところでしょ。それに、大雅の文章には人を動かす力がある。ずっと一緒にいる私が言うんだから、間違いないよ! だから、自信持って! 絶対に報われる時が来るから、その時まで諦めないで! いつまでも私が付いているから!〟
そう言って、めげそうになる大雅の心をいつも奮い立たせてくれた。
高校の同級生だった大雅と彼女が付き合い始めてからもう十年が経つ。
その十年間が順風満帆だった、と言えば疑問符が頭をいくつも飛び交うだろう。
喧嘩をして一切言葉を交わさないこともあれば、露骨に避けられることもあったが、何があろうと大雅と彼女が離れることはなかった。
どんなに大きな喧嘩をしようが、大抵は何がきっかけともなく仲直りをして、次の日には一緒に朝ご飯を食べていた。
そんな彼女と大雅は結婚の約束をしていた。
海が好きだ、と言う彼女のために海の見えるレストランの個室を貸し切ってプロポーズした。
「一生、僕が美波を守る。結婚してください」
「……もう、遅いよ」
そう言いながら、彼女は笑いながら目に溜めた涙を拭き承諾してくれた。
左手薬指にはめるはずだった指輪をポケットから取り出し見る。
〝T&M〟
彼女との思い出に耽りながらイニシャルを見ると自然と涙が込み上げてくる。
よく世間では〝運命の人同士は見えない赤い糸で結ばれている〟だとか、〝実は前世でも恋人同士で魂が惹かれ合っている〟だとか、そんなロマンティックなことを言ってはきゃーきゃー言う人がいるが、大雅はそれを鼻で笑っていた。
――そんな都市伝説みたいなことあるわけないだろ。
そう思っていたが、今なら断言できる。
――僕は間違っていた。運命の赤い糸は存在するんだ!
大雅と彼女が出会い一緒になったのはまさに運命だった。
それ以外に考えられないことが、現在進行形で大雅の頭上を笑顔で飛び回っていた。
無人駅を降りると食堂に喫茶店、床屋、本屋、コンビニなどが建ち並んではいるが、お世辞にも繁盛しているようには見えない。車の通る音と風で葉が擦れる音、若く青い木々の匂いだけがそこの全てだった。
午後四時三十分。
通夜まであと一時間近くはある。
ここから歩いて五分程度で着く距離に式場があるので時間に余裕はあるが、かといってやることもない。
胸を大きく開き、息をゆっくり吸い込むとそれを一気に吐き出す。
そうすると自分の中に溜まった異物だけが都合よく吐き出せている感覚がして気持ちが良い。
十月だというのに依然として暑さは引かず、じめじめとした空気が漂う。
もうすぐ沈む太陽が最後の悪足掻きとばかりに大雅の瞳を刺激する。最近は特に籠って作業することが多かったので、目に突き刺さる日差しが余計に痛い。
普段はコンビニや本屋のアルバイトを掛け持ちして日銭を稼いでいるフリーターだが、時間がある時は小さい頃からの夢である小説家になる為、執筆活動をしている。
何度も新人賞に応募したりネットに投稿したり、時には知り合いの編集者に原稿を読んでもらったりしてはいるが、箸にも棒にも引っかからない。
――ここまでやっても駄目なんだ。やはり僕には才能がないのかもしれない。今からでもいいから手に職をつけようかな……。
そう思い何度も諦めようとしたが、その都度、彼女は叱咤激励してくれた。
〝その程度で何言ってるの! 大雅の良いところは諦めの悪いところでしょ。それに、大雅の文章には人を動かす力がある。ずっと一緒にいる私が言うんだから、間違いないよ! だから、自信持って! 絶対に報われる時が来るから、その時まで諦めないで! いつまでも私が付いているから!〟
そう言って、めげそうになる大雅の心をいつも奮い立たせてくれた。
高校の同級生だった大雅と彼女が付き合い始めてからもう十年が経つ。
その十年間が順風満帆だった、と言えば疑問符が頭をいくつも飛び交うだろう。
喧嘩をして一切言葉を交わさないこともあれば、露骨に避けられることもあったが、何があろうと大雅と彼女が離れることはなかった。
どんなに大きな喧嘩をしようが、大抵は何がきっかけともなく仲直りをして、次の日には一緒に朝ご飯を食べていた。
そんな彼女と大雅は結婚の約束をしていた。
海が好きだ、と言う彼女のために海の見えるレストランの個室を貸し切ってプロポーズした。
「一生、僕が美波を守る。結婚してください」
「……もう、遅いよ」
そう言いながら、彼女は笑いながら目に溜めた涙を拭き承諾してくれた。
左手薬指にはめるはずだった指輪をポケットから取り出し見る。
〝T&M〟
彼女との思い出に耽りながらイニシャルを見ると自然と涙が込み上げてくる。
よく世間では〝運命の人同士は見えない赤い糸で結ばれている〟だとか、〝実は前世でも恋人同士で魂が惹かれ合っている〟だとか、そんなロマンティックなことを言ってはきゃーきゃー言う人がいるが、大雅はそれを鼻で笑っていた。
――そんな都市伝説みたいなことあるわけないだろ。
そう思っていたが、今なら断言できる。
――僕は間違っていた。運命の赤い糸は存在するんだ!
大雅と彼女が出会い一緒になったのはまさに運命だった。
それ以外に考えられないことが、現在進行形で大雅の頭上を笑顔で飛び回っていた。
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