【完結】幽霊彼女と後悔探しの旅

よーじろー

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二章

十七話

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「美波、本当にこのまま言っても大丈夫なの?」
『はい。大丈夫ですよ』
「でも、春豊ってテレビにラジオに引っ張りだこだから、会えたとしても話している時間なんてないんじゃないの?」
『そこは……ほら、さっき教えた通りに。その言葉を言えば話位は聞いてくれると思います』
「…………本当にそんな上手くいくかな?」
『あっ、出てきました!』
 美波が大雅の言葉を遮って背中を押す。
 物に触れることは出来ても人に触れることは出来ないので、当然、すり抜けてしまうが、美波曰く、大事なのは実際に触れているかどうかではなくその行為自体なのだ、という。
 美波はいつになく浮かれていた。
 どこかそわそわしていていつも以上に挙動が忙しない。しかし、緊張しているというよりは子供が遊園地に行く時のような、そんな楽しみが介在した表情だった。
 しかし、それと同時にまだ迷っているような表情を浮かべることもあり、その心中を察するのは容易ではなかった。
 
 ――美波のお母さんがいつから春豊に心酔しているかは不明だが、もし仮に昔から知っているのであれば美波が知っていてもおかしくはない。それどころか、面と向かって話したことだってあるかもしれない。……それなのに美波はそのことについて話すことはない。
 
 あえて問い詰めるようなことはしないが、そのことが大雅の頭をもやもやさせていた。
 
 ――春豊について知っているのであれば、教えてくれればもっと円滑に事を進められるかもしれないのに……。
 
 訊けば教えてくれるかもしれないが、どこか非協力的な美波に若干の苛立ちを感じながら、大雅は目の前に近づいてくる春豊に話しかける。
「あの! 春豊さん、ですか?」
 帽子に色の濃いサングラスを着けてはいるが、背中まで流れる鮮明な赤髪とモデル顔負けのスタイルを見れば分かる。何より歩き方や立ち振る舞いから出る雰囲気が葬式の時に見た時と同じであった。
 間違いなく春豊だった。
「…………」
 声をかけられた春豊は足を止めるが、口を開くことはしない。
「春豊? 誰ですか、その人?」
 春豊のすぐ後ろを付いていた男性が大雅と春豊の間に入り言う。
「とにかくその人が誰だか知りませんが、おそらく人違いですよ。それでは」
 大雅との会話を強制的に終わらせ、春豊と男性が歩き出す。
「待ってください! 春豊さんに訊きたいことがあるんです!」
 大雅はそそくさと去ろうとする二人の背中に言葉を投げる。
「だから、その春豊とかいう人ではないと言っているでしょう。しつこいですね」
「いや、でも」
「違うと言っているでしょう! これ以上は警察を呼びますよ!」
 その言葉に大雅は一歩後ずさる。
 客観的に見て大雅がしていることは芸能人に付き纏うストーカーのそれであり、そこに言い訳の隙は一分もない。
 ――それでも、ここで引くことは出来ない!
 その気持ちを胸に大雅は美波に言われた言葉を思い返す。
『たぶん、大雅が声をかけても止まってはくれないと思います。だから、その時はこの言葉を言ってみてください。それは――』
 ものすごい剣幕で詰め寄る男性とその後ろでちらりと大雅を見る春豊に向かって言う。

『「春豊さん、芸能界なんて早く引退しなよ! じゃないと、夢だった世界一周だって宇宙旅行だってできないまま、しわしわのだるだるのくたくたのババアになっちゃうよ!」』

 大雅が話すと同時に美波が言う。
 この言葉を言うには抵抗があった。ましてや相手は世界でなりたい顔ランキング常連の美女だ。怒られるどころか、社会から存在を消されかねない。
 大雅は恐る恐る目を開け、反応を確認する。
 男性は驚きのあまり大口を開けたままこちらを見ている。
 歩みを止めることはないが、周囲の人もこちらをちらちらと伺っている。
 男性と春豊には大雅の声しか聞こえていない。
 それは間違いないはずだった。
 そのはずなのに、サングラスを取り大きな目を見開く春豊の視線は大雅ではなく、確実にその背後で宙に浮かぶ美波を捉えていた。
 驚いた様子で宙を見る春豊は間違いなく美波の姿を視認していたのだ。
 春豊の頬に大粒の涙が流れる。
 日差しに輝く一粒の涙が顎先から地面に落ち、その跡を辿るように次々と涙が伝う。
 美波がその表情を見て、悲しそうに微笑む。
 その表情は嬉しさや楽しさ、悲しさにとどまらず、呆れや怒り、諦めまでも含まれているような複雑な表情だった。
「あ、あなた! 失礼ですよ! どこの誰ですか⁉ 今度正式に」
 呆けていた男性が怒号を飛ばしながら近づいてくる。
「亮(りょう)、あなたは先に行っててください」
 その突然の言葉に亮と呼ばれた男性が呆然とする。
「聞こえなかったかしら? 先に行っててちょうだい。そこまでかかりませんし、事が済んだら私もすぐに向かいます」
「しかし」
「いいから、行きなさい!」
「は、はい!」
 春豊が語気を強め言うと、亮は体を緊張させ答え足早に行ってしまった。
 春豊がゆっくり近づいてくる。
 近くに来ると背の高さもあってか、圧倒的な存在感に圧せられる。
「美波……また会えて良かった」
『私も……春豊さんにまた会えて嬉しいです』
 春豊と美波がともに涙を流す。
 感動の再会とも呼べる光景に大雅はただただ見守ることしか出来なかった。
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