【完結】幽霊彼女と後悔探しの旅

よーじろー

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三章

二十八話

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 ……五分……十分……二十分……三十分……一時間……。
 
 美波が帰ってくる気配はなく時間だけがただただ経っていった。
「……さすがに遅すぎない?」
 週刊誌を読む春豊が腕時計を確認する。
「確かに……探しに行ってみましょうか?」
 大雅と春豊が店を出ると、辺りはオレンジ色に染まっていた。
 水族館の閉館時間が迫り、帰路に着く客ばかりであった。
「どこに行ったんだ……」
 大雅がそう呟きながら見回すが、美波らしき人物は見つからない。
「まさか……」
 春豊が手で口を隠しながら言う。
「私達の知らないところでもう成仏しちゃったとか……」
 そう言う春豊の表情はいたって真剣だった。
「そんな、まさか……」
 大雅は少し笑いながら言うが、よく考えてみるとその可能性がゼロではないことに一抹の不安を覚える。
 
 ――僕からあまり遠くに離れられない、と言ったのは何を隠そう美波からだ。その美波が自分でそれを破るとは考えにくい。少し探せば見つかる距離にいるはず。しかし、いくら待とうがいくら探そうが、見つからない。まさか僕から遠く離れたところに行ってしまったから消えてしまったとか、それとも一人で心残りを解消してしまったとか……。
 
 考えれば考えるほど成仏の二文字が大雅の頭の中でより濃く鮮明になってくる。
 
 ――心残りを解消して成仏して欲しい、と思っているが、何の前触れもなくいなくなるのは……絶対に違うと思う……というより、そう思いたい。
 
 大雅の心臓の鼓動が早くなり、額に浮かぶ大粒の汗が気持ち悪い。
 生温い風が肌に当たる感触と鼻腔を刺激する潮の匂いが大雅の焦りを助長する。
「とりあえず、私はあっちを探すから、大雅君はそっちを探してきて!」
「はい! 分かりました!」
 春豊と左右に分かれて水族館の周りを捜索する。
 
 ――美波! どこにいる! 美波! 
 
 必死になって探すが、やはり見つからない。
 大雅の中に浮かぶのは美波が車にはねられたと知らされた時の感覚であった。
 結婚を誓いこれから一緒に生きていこうと思った矢先の出来事に、息をするのも忘れてしまったあの瞬間がフラッシュバックする。
 そして、同時にその先に来る絶望がちらりと顔を覗く。
 
 ――もう二度とあんな思いをしたくないと思いながら、美波の心残りを探していたのに……今度は絶対に後悔しないように別れるんだ、と心に決めていたのに……またこんなことになるなんて……。

「……はあ、はあ、はあ……いま、したか?」
 手を繋ぎながら笑顔で駅に向かうカップルだらけの中、息を切らして奔走する大雅が先に戻ってきていた春豊に訊く。
「いや、こっちにはいなかったわ」
 春豊が首を振る。
 日は落ち、オレンジ色の世界に闇が落ち始めていた。
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