【完結】幽霊彼女と後悔探しの旅

よーじろー

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四章

三十三話

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 八千代が寛大の手を取り、江戸の町を歩く。
 周りの人が八千代と寛大に好奇な視線を送る。
 この場において確実に浮いていた。
 それもそのはずである。
 身に着けている物が庶民のそれとは全く違う上、僅かな隙間から覗く傷一つない綺麗な肌はいかに子供であっても喧噪に包まれたこの町ではありえないことだった。
 寛大は八千代の背中で体を小さくし恐る恐る辺りを見回すが、八千代はそんな人の視線など気にせず歩く。その瞳は輝きに満ちており、嬉々とした表情をしている。
「お! 八千代じゃねえか! また抜け出してきたんか! ほんとお前も懲りないな! がっはっはっはっ!」
 もみあげから顎先まで髭を生やし、肌が真っ黒に焼け、常人の四、五人であれば同時に軽く持ち上げられそうな筋骨隆々の男に声をかけられる。
「そうなの! もう、あんなところに一日中いたら体だけじゃなくて頭まで腐っちゃうわよ」
「がっはっはっはっ! お前さん達みたいな偉い人間にも、それはそれで苦労はあるんだな!」
 熊みたいな男の豪快な笑い声が町中に響く。
 その言葉に八千代がむっとした表情で口を開く。
「そうよ。うーん、でも、おじちゃんほどじゃないかな」
「……ん? それはどういう」
「また昨日他の女の人と遊んでたんだって。いい加減にしないと桃(もも)さんに」
「や、八千代ちゃん! しっ!」
 男は周りにも十二分に聞こえるくらいの声量で話す八千代の口を大きな手で塞ぎ、冷や汗を浮かべ、目をきょろきょろさせる。
 そして、大きな体を器用に畳み八千代と視線を合わせる。
「八千代ちゃんは何が欲しいのかな? 今度何か買ってあげるよ」
「うーん……いらないかしら」
 暫し顎に手を当てた後、男の目を見て答える。
「えっ、でも、それじゃあ」
「大丈夫だよ。桃さんには黙っておくから。その代わりもう女の人の尻を追っかけるのは止めること! それと今後は桃さんをもっと大事にしてあげること! それが条件。いい?」
「はい。分かりました」
 器用に折り畳んだ体をさらに小さく縮こませ男が言う。
 十歳の少女が熊みたいな大男に説教をしている画は何とも奇妙だったが、不思議としっくりくるような安定感があることも事実だった。
「八千代ちゃん! この前はありがとな! おかげで捕まらずに済んだよ」
「それならよかったよ」
「八千代ちゃん、聞いてよ。またうちのが無駄遣いしてさ。何度言っても聞かないんだよ。今度、八千代ちゃんの方から言ってくれないかい?」
「うん。分かった。今度、話してみる」
「あらっ! 八千代ちゃんじゃない! お団子食べてくかい?」
「えっ! いいの⁉ ありがとう!」
 老若男女に関わらず、通りがかる人が八千代に話しかけては悩み事を打ち明けたり、アドバイスを求めたりする。そんなことを続けていくうちに弱冠十歳にして八千代はこの町の相談役になっていた。
 生まれ落ちたその時から八千代には人外の力があった。
 ちょっと先の未来が見えたり見えなかったり、流れる時間を遅く出来たり出来なかったり、触らずとものを動かせたり動かせなかったり……。
 八千代自身もその能力の詳細を把握しておらず、発動条件や程度などを自分でコントロールすることも出来ていなかった。全てが未知であり曖昧であるため、力があると言っていいものかどうかも微妙なほどであった。
 しかし、それでもひとつ、心がけていることがあった。

 〝出来ることならば、その力を困っている人のために使いたいということ〟

 私利私欲や政治や権力争いに使うのではなく、町で困っている人がいたらその人のために使いたい、と八千代は望んでいた。
 そんな町の人は皆、八千代といつもその後ろに隠れる寛大がどんな人物なのか、把握していた。しかし、それを知ってなお、一片でも態度を変える者はいなかった。人が違えば問答無用で切り捨てられてもおかしくない言葉遣いと態度で八千代と寛大に話しかける。
 八千代と寛大がそう望んでいるということもあるが、それ以上にそう接することがこの子達にとって一番いいことである、と皆が判断し動いている結果である。ここの町の人達はそういう人間なのだ。
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