【完結】幽霊彼女と後悔探しの旅

よーじろー

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四章

三十二話

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 時は江戸の時代まで遡る。
 佐々木虎之助は百姓であった。着ている物はぼろぼろで髪はいつもぼさぼさ。その日の生活をその日の稼ぎで賄うような貧しい生活を送る百姓の中でも貧乏な男。
 対する八千代は将軍家の娘。当然、着る物や食べる物に困ることはなく、八千代が望めば家来が何もかも叶えてくれる。
 身分が全く違う二人は絶対に結ばれないと知っていながら愛し合っていた。
 決して交わることのない二人の出会いは偶然だった。

 ――――ドタドタドタドタ…………。
「姫様! 姫様は何処! 姫様!」
 宮廷を八千代の世話をしている爺が叫びながら走り回る。
 そのけたたましさはややもするとこの場所には不相応な振る舞いかもしれないが、それを咎める者は誰一人としていなかった。むしろ、皆はその光景を温かい目で見守っていた。
「八千代様、大丈夫なんですか?」
 縁側の下に隠れて八千代の腹違いの弟寛大(かんた)が声を潜め訊く。
「お前は本当に心配性だね。大丈夫よ。ちょっと町を見て帰ってくるだけだから」
「しかし、っむぐ……」
 そう言いかけたところで、八千代が寛大の口を手で塞ぐ。
「あっ、そこの者、姫様を見なかったか? ……そうか。見てないか。もし見かけたら、すぐわしに報告を! よいな! っち、あのお転婆娘め!」
 ――――ドタドタドタドタ…………。
「ほら、爺が行った。今よ!」
 八千代が寛大の口から手を放し、ここぞとばかりに飛び出す。
 小さく息を吐きながら寛大は八千代の後に続く。
 向かう先は宮廷の外、庶民が生活する江戸の町であった。
 八千代が宮廷を抜け出して町に来ていたのは何も今日が初めてというわけではない。それどころか、爺の隙を見計らっては何度も抜け出している。常習犯である。
 宮廷に仕える者であれば皆、姫がどれだけ方々に気を使い、日々辛く厳しい教えを受けながら生活しているかは知っていた。
 これから大きくなっていけばその枷がより重くなっていくことも、すでに決められた道をただただ歩かなくてはいけないことも。
 自分のやりたいことが出来ず、生きたいように生きられない人生になるということも。
 それは誰かが口に出さずとも自明の理であった。
 だからこそ、幼く枷の軽い時分くらい、好きにさせてあげたい、という親心が八千代の行動を黙殺させていたのだ。
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