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第1章 アリダン大火災
1.始まりの火事
しおりを挟む赤い色。鼻に付く臭い。焼きつくような息苦しさ。燃え盛る炎…
火事…なのか…?
先ほどまでの景色が一変し、あたりは炎に包まれていた。朦朧とする意識の中、アダムは沈黙した水車小屋の板張りの上、ゆっくりと起き上がった。
割れた鏡が、黒髪の少年を写し、それが自身だということを把握する。破片が辺りに粉砕し、この火事の酷さを物語っていた。つい数分前まであった、水車小屋特有ののどかな雰囲気は、赤く塗りつぶされていた。
「イヴ……」
弾かれたように、外に飛び出す。
視界に広がったのは、やはり同じ情景。いつも元気な近所の子供たちの声も。商人たちの威勢の良い声も。今はもう聞こえなくなっていた。見上げれば、暗く淀んだ空が顔を覗かせている。古来、存在していたとされる、伝説の惑星。地球。あの世界は、一体、どんな空をしていたのだろうか…と、そんなことをイヴが言っていたのを思い出す。
足は止まらなかった。続く道には、力無く横たわる、見覚えのある人たち。口内に迫り来る焦げた空気。数分前、パンを盗んだパン屋の店主は、無事なのだろうかと考えながら、通り慣れた路地にでる。狭くうねうねとした小道を駆け抜け、開けた場所に、一軒の赤い屋根の建物。
「みんな…!!」
黒く煤けた建物。扉を押し開け、飛び込んだ。ただれたエントランス。今朝まで、孤児たちの笑顔で溢れかえっていた、その全てが、今はもうない。広間に出ると、階段の下に、白い修道着を身をまとった女が見えた。
「先生!」
駆け寄っても返事はなかった。息はある。
「先生!どうなってんだよ!」
息を吹き返すような、そんな静寂があり、優しい瞳がうっすらと開いた。
「…ヤドクとブームの双子は、隣町に買い物へ行ったわ。ミアナちゃんも一緒よ」
「ほ、他の奴らは」
「みんな避難させたわ」
「な、なら先生は!?」
「……私はいいのよ、心配ないわ」
迫り来る炎が、少年の心に囁く。見捨てるのかと。
「ダメだ!早くここから逃げよう!」
「……あなたは、イヴちゃんを」
「イヴ?イヴはまだ逃げてないのか?」
「…きっと、上の階にいるわ。あなた、昔言ってたわよね。イヴは俺が守るんだって」
聞こえた気がした。イヴの怯えたような声。
「先生…俺、イヴを……」
「行ってあげなさい。きっと待ってるわ」
心の中で、見捨てるのかと誰かが問うていた。そんな気がした。
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