セカンドアース

三角 帝

文字の大きさ
23 / 185
第3章 SEARED

3.殺し屋

しおりを挟む

  剣先と剣先が絡み合い、鉄同士の切れの良い爽快な音が部屋を満たした。相手の行動を、出来るだけ優先的に察知することで、一歩早く行動に移す。もし、相手がディスを仕掛ければ、こちらの敗北は決まる。そんな緊張感が、そこにはあった。

「お前は、誰だ」

  黒ローブに身を隠す、図体からして男だろう。そいつは、パラの合図と同時に、アダムに襲いかかった。顔や表現は一切読み取ることはできなかったが、相手に余裕が存在することだけは確かだった。
  命を賭けた戦い。それが、実戦。
  だが、本当に殺すことはないだろう。
  そんなことを脳裏に、アダムは短剣を振るっていた。角度を変え。足の位置を変え。相手に行動を読まれぬようにする。それほど、相手の戦闘には、戦闘へ対する慣れが見て取れた。
  相手のペースが不意に乱れる。いや、乱したのか?アダムは、右に握っていた短剣を、後方へジャンプしながら、左へ持ち帰る。ヒュンッという音がして、数秒前、アダムがいたはずの場所に空ぶった相手の剣先が突き立てられる。アダムは気づく。
  この戦闘は、本気だ。

「アクチノイド人とかいったよな?」

  相手の返答はない。

「地球は、どんな場所だった?」

  アダムの質問に、男の体が一歩鈍る。隙を突き男の背後に体を滑らせる。すかさず男も振り返り、振り返りざまに剣を振り回す。

「随分と荒れぇな」

  アダムの姿は、部屋にはなかった。
  男は、二度目の空振りを受けた剣を肩に引き上げ、男のスタイルなのであろう。腰の重心を落とし、静かに静止した。

「どうやらこの試験。お前を殺さないと合格できねぇみたいだな。かと言って、今回の殺し屋として雇われた、罪のないお前を俺が殺してしまえば、他の奴らからの批難を受ける…つまり、俺を本格的に殺りにきたってわけか」

  黒ローブの男は、剣先を振り下ろすと、上を見上げた。真っ白に塗られた天井の小さなくぼみにアダムは立っていた。ここなら、登ってくることもないだろう…そう思ったのが甘かった。
  男のローブがはためく瞬間。アダムの目の前に男の姿があった。驚きのあまりバランスを崩し、落下するアダムを、空中で追うように、剣先を向け追いかける。
  死ぬ。
  男の口元が片方に引き上がり、不気味な嘲笑を浮かべる。違う。こいつは…
  アダムは、男の刃先を右に交わし、体をなかなかの角度で捻じ曲げながら、地面に着地する。男もなんなく着地に成功し、足を軸にこちらへ突進してくる。体制は落下時と変わらず、刃先を突き出してくる体制だ。

「誰に雇われた」

  男の返事はない。

「何人、こうやって殺した」

  もちろん、返答はない。白い壁に浮き出した赤いシミは、随分と古いものが多かった。なんとなく分かった気がした。この組織。いや、シーレッド長官レパート。あいつは…

  今までに感じたことのない衝撃。胸の皮を引き裂き、何か冷たい無機物が侵入してくる感覚。怖かった。初めて、死ぬということを自覚する。脳裏に浮かぶのは、記憶の奥に眠る、イヴの笑顔。迎えに来たのだろうか。

  その時だった。アダムの体が力なく地面に崩れ落ちた瞬間。爆発のような音が響いた。ぼやけた視界にうっすらと映るのは、白く巨大な…
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...