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第3章 SEARED
3.殺し屋
しおりを挟む剣先と剣先が絡み合い、鉄同士の切れの良い爽快な音が部屋を満たした。相手の行動を、出来るだけ優先的に察知することで、一歩早く行動に移す。もし、相手がディスを仕掛ければ、こちらの敗北は決まる。そんな緊張感が、そこにはあった。
「お前は、誰だ」
黒ローブに身を隠す、図体からして男だろう。そいつは、パラの合図と同時に、アダムに襲いかかった。顔や表現は一切読み取ることはできなかったが、相手に余裕が存在することだけは確かだった。
命を賭けた戦い。それが、実戦。
だが、本当に殺すことはないだろう。
そんなことを脳裏に、アダムは短剣を振るっていた。角度を変え。足の位置を変え。相手に行動を読まれぬようにする。それほど、相手の戦闘には、戦闘へ対する慣れが見て取れた。
相手のペースが不意に乱れる。いや、乱したのか?アダムは、右に握っていた短剣を、後方へジャンプしながら、左へ持ち帰る。ヒュンッという音がして、数秒前、アダムがいたはずの場所に空ぶった相手の剣先が突き立てられる。アダムは気づく。
この戦闘は、本気だ。
「アクチノイド人とかいったよな?」
相手の返答はない。
「地球は、どんな場所だった?」
アダムの質問に、男の体が一歩鈍る。隙を突き男の背後に体を滑らせる。すかさず男も振り返り、振り返りざまに剣を振り回す。
「随分と荒れぇな」
アダムの姿は、部屋にはなかった。
男は、二度目の空振りを受けた剣を肩に引き上げ、男のスタイルなのであろう。腰の重心を落とし、静かに静止した。
「どうやらこの試験。お前を殺さないと合格できねぇみたいだな。かと言って、今回の殺し屋として雇われた、罪のないお前を俺が殺してしまえば、他の奴らからの批難を受ける…つまり、俺を本格的に殺りにきたってわけか」
黒ローブの男は、剣先を振り下ろすと、上を見上げた。真っ白に塗られた天井の小さなくぼみにアダムは立っていた。ここなら、登ってくることもないだろう…そう思ったのが甘かった。
男のローブがはためく瞬間。アダムの目の前に男の姿があった。驚きのあまりバランスを崩し、落下するアダムを、空中で追うように、剣先を向け追いかける。
死ぬ。
男の口元が片方に引き上がり、不気味な嘲笑を浮かべる。違う。こいつは…
アダムは、男の刃先を右に交わし、体をなかなかの角度で捻じ曲げながら、地面に着地する。男もなんなく着地に成功し、足を軸にこちらへ突進してくる。体制は落下時と変わらず、刃先を突き出してくる体制だ。
「誰に雇われた」
男の返事はない。
「何人、こうやって殺した」
もちろん、返答はない。白い壁に浮き出した赤いシミは、随分と古いものが多かった。なんとなく分かった気がした。この組織。いや、シーレッド長官レパート。あいつは…
今までに感じたことのない衝撃。胸の皮を引き裂き、何か冷たい無機物が侵入してくる感覚。怖かった。初めて、死ぬということを自覚する。脳裏に浮かぶのは、記憶の奥に眠る、イヴの笑顔。迎えに来たのだろうか。
その時だった。アダムの体が力なく地面に崩れ落ちた瞬間。爆発のような音が響いた。ぼやけた視界にうっすらと映るのは、白く巨大な…
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