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第4章 サロキダ戦
2.ルーラー蛇
しおりを挟む「ブーム!」
宙吊りにされたブームの口から、赤い液体が吹き出す。目は充血し、顔は青ざめ、意識は朦朧としていた。
「あいつ何やってる!ルーラーを使え!発動させろ!」
意識の中で、いろんなことが幾筋も絡み合う。向こう側で同じように宙吊りにされたヤドクは、ポケットから何かを取り出そうともがく。だが、ブームとヤドクの足を掴み上げる奴の力はただ者ではなく、身動き一つさえ許さない。
「…ど……うなって…んだよ、こいつ」
ブームは掴まれた右足を強く引く。もちろんびくともしないが、所詮人間。隙はある。右足を引き、男を引きつけ、左足を振り上げ、男の頭部後方まで持ち上げる。男の動きは素早くブームの左足を交わそうと身をよじる、その瞬間に、ブームはポケットの中から緑色の水晶石を取り出し、床に落とす。緑の煙と、生ぬるい空気がブームを包み、次の瞬間、ブームの体は男から何十メートルも遠ざかっていた。
「うわ!すっげぇ!」
自分自身でも、自分の動きが見えなかった。まるで瞬間移動のようだ。ふと腕に重さを感じ、ブームは恐る恐る右腕を見下ろす。ウネウネとした緑色の光沢。黄色い眼力がブームを見つめ、細長い舌が、舌なめずりのような不快音を立てながら、出たり引っ込んだりを繰り返していた。
確か、レパートは接近性戦闘能力とか、なんとか言ってたかな?ブームはうずうずと唸るような好奇心に、大きく息を吸う。
とりあえず、このルーラーにどんなことができるのかを試してみなくてはならない。ブームは、もう一度右腕の蛇を見る。こちらを凝視し、舌を出し引きしていた。
ブームは、右腕を突き出し、大きく引く。身体中を伸ばし、そして勢いよく前方に突き出す。よくある、何かを投げる動作だ。数キロほど向こう側、サロキダ国城門から出てきた、白装束に身を包んだ組織団、レブルブルー。その集団の一角が、大きくえぐられるように地面に崩れた。
「お?」
ふと見れば、気づかぬうちに右腕にスネークが巻き付いていた。先ほどと変わらない。そんな様子だった。ブームはもう一度崩れた集団の方を向く。
血を吹き出し倒れこむ男たち。中には、体の中心に巨大な穴がポッカリ空いている者もいる。ブームはそのえげつなさに吐き気を堪え、再び自身の右腕に絡みついたスネークを見る。
「……お、お前、強えぇな」
それに応答するかの如く、スネークはシーッと舌を鳴らす。ブームはスネークを次は右足に巻きつける。
確か、レパートはどんなものにも穴を開ける、とか言ってたな。それが、人間にも穴を開けれるってことは…
ふと前を向くと、数十メートル先に、スネークの巻き起こした煙の向こう。靄の端に緑のマントがはためく。煙が上下真っ二つに切られ、姿を現した長身の男。深緑の短髪に、頬には大きく削れた傷跡。ゴツく硬そうな筋肉。威圧感。手にはヤドクの…コート、それだけだった。
「ブーム!その男はレブルブルーのトップ集団のやつだ!まともに相手にできる奴じゃない!逃げるんだ!」
隙をついて逃げ出したのだろう、ヤドクは後方に駆け出しながら、ブームにそう叫ぶ。
「……んなわけないじゃんか~」
「ブーム!お前死ぬ気か!?」
「いや?死ぬ気なんてまったくないね」
ブームは足に絡みついたスネークを見る。
こいつの可能性にかけるだけだ。
「ブーム!早く逃げるんだ!そいつはまだ武器を装備してない!そのうちに!」
「…いや、もう遅いみたい」
緑の巨人が、ゆっくりと取り出した、銀の斧。鋭利な姿に、ブームはゾクリと興奮する。
「久々だな~そういうの出してくる奴」
「…………逃げたほうがいいんじゃないのか?」
「その台詞、交換してもいいかな?」
男はこれは面白いとばかりに口元を引き上げる。殺気溢れる嘲笑は、ブームにとって新鮮なものだった。
「…それは困るな」
ブームの緑と、大男の緑が閃光を描き、宙で炸裂する。
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