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第4章 サロキダ戦
4.ルーラー蛙
しおりを挟む意識のないブームを、ミアナに預け、アダムは振り返る。邪魔な長いコートを左腕でかき分け、クロウの攻撃を謎の重圧で回避した緑髪の大男を探す。姿がない。
アダムが仕掛けた、正面からの剛撃。しかし、大男の鼻先で、クロウの動きに制御がかかり、操ることができなくなったのだ。
「あれは、いったい……」
圧倒されていたのか、ポカンと口を開け、空を仰いでいたパラが、ふと思い出したかのように、古びた皮のトートバッグを車内から引きずり出してきた。カビの臭いと一緒に、取り出されたのは、一冊の本。
「これは?」
「……過去、奴らと戦闘になった人たちの証言よ、みんな。死んだけど…最後の最後まで、次につながるように奴らの特徴を残してくれていたの」
「こうした戦争が始まったのは、四年前の話だろ?その本はとても古いじゃないか」
ヤドクの質問に、パラが首を傾げる。本の表面はとてつもなく古く、黄ばんでいる。パラは、そんなことを考えている暇もない、とばかりに、本を勢いよくめくっていく。
「あ!見つけた!これ!」
パラが指差したページの文頭には、デカデカと『緑の大男』と表されていた。あの大男を指す言葉だということは明確であった。
「ノーベ・ユピエル。銀斧の所持者。天地逆転の力を持つ銀斧により、重力を操り、自身から半径60メートルに入った者はみな、身体の自由を奪われる」
「……ふ~ん、随分と詳細に書いてあるね」
ヤドクはパラから本を奪い取り、次々とページをめくる。
「あれ?おかしいな。この本、6年前に書かれた本みたいだよ?」
「何故わかる?」
「ほら、これ」
ヤドクがそう言って指差したのは、一番最後のページに書かれた、日付だった。確かに、そこには6年前の年と、その隣に言葉が書かれてあった。年号のようだ。
「和平会議、長官暗殺、アリダン国襲撃、ルーラー実験、シーレッド設立、カミナス戦……この記録は、この最後のカミナス戦のものではなく、もっと前の記録…なのかもしれないね」
ヤドクは一人考え込むような仕草をする。
「とりあえず、あの大男を倒す方法は?」
「…まだ、書かれていないようだ」
「役にたたねぇじゃないか!」
ヤドクは、ふと自分のストレージストーンを見る。青い輝きを放つ、その石を各方から見て、思考を巡らす。
「……ボクが先にいく。ボクのルーラーは索敵だし…ボクが、ノーベを探すよ」
「で、でも。一人じゃ危険よ!アタシも一緒に…」
「…ミアナは、ここで待ってて。ブームのこと…頼んだよ」
ヤドクは黒コートの下に着た、ブームとお揃いの青パーカーを軽く握りしめる。これをもらった日のことは、今でも忘れられない。
「ノーベ……ユピエル…」
青い光が弧を描き、ヤドクの周りを回転する。浮上していく体と、無理矢理なルーラーの発動工程。ヤドクは急かすようにルーラーを発動させ、出現した青いカエルにまたがった。
「グギョギョギョギョォォォオオオオ」
いや、本当にカエルなのか?と思わせるような奇声を放ち、ヤドクの合図で空に消える。
優しい色が散らばった、黄色い国、サロキダ国。高い位置から一望する、遮りのない世界。ヤドクは初めて、その景色を知った。
ふとカエルの呼吸音が小さくなる。何かを見つけ当てたのだろうか。続けて、ヤドクも同じように耳を澄ませる。何かを削るような音。それが空気と空気の擦れだとわかる。
ヤドクの所持した、このフラッグの力は、索敵だ。敵の居場所を感知し、味方に伝える。いわば、見張り塔のような者だろう。こうして空中に浮上することで、上から敵の姿を監視することができる。そして、もう一つ。索敵の最中に敵に見つかっては一溜まりもないので、姿を消すこともできるようだ。その証明に、下にいる人たちの「消えた!」という声が絶えない。
「50メートル先、西側!ノーベ・ユピエル発見!」
サロキダ戦が始まった。
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