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第5章 タロソナ国
3.青髪の男
しおりを挟む「……おっせぇな…」
赤錆のこびりついた、小さな噴水。流れる水を、指先で触れる、やんわりと温かく、素早く拭う。アダムは、近くに転がった小石を蹴り、軽い動作で立ち上がった。
顔を上げると、緑の屋根瓦が広がる、タロソナの国が、トンネルの向こうの暗がりから覗いていた。
黄の国サロキダと、緑の国タロソナとの国境。100メートルほどの大トンネルを挟み、向かい合う両国。
「これは面白い、黒髪の少年とここで遭遇してしまうとはな」
ふいにそんな声がかかり、振り返ろうとするが、アダムは動きを止めた。
声に聞き覚えがないのだ。
「誰だ」
振り返ることなく、そう問う。振り返れば、自分の命がないような。そんな気さえ、その言葉の裏にはあった。
「俺は、レブルブルー最高組織の者だ」
「トップのあの連中…ってわけか」
「よく、そう言われているな。名も…知りたいか?」
「是非、頼む」
「……なら、相手の顔ぐらい認識しなくてはならないのでは?君は少し、警戒心が強すぎる」
「ここでたとえ話としてはなんだが、一つ、言ってやろうか?もし、俺が振り返るとする。その瞬間に、お前の仲間が俺を銃だかなんだかで一瞬で殺す…そうだとしたら?」
「残念ながら、まだ仲間は来ていないんだ。だが、もうじき到着するだろう。それまでこの状況を先延ばしする気が、君にあるのなら、俺はそうしても構わない」
アダムは、ふぅと深くため息を吐くと、ゆっくりと振り返る。右足を少しだけ後ろにし、捻るように振り返ることで、いつでも銃弾を交わせるようにするが、男の言ったことは、随分と素直なものだった。
青髪に、銀縁の眼鏡の、その男は「ほらな?」と言って、両手を広げ、肩を上下させる。その動作が、冷淡な表情のその男によく合い、アダムはある種の脱力を感じた。
「お前は、他の奴らと違って、話が通りそうだな」
「確かに、君が言う他の奴らとやらは、随分と理性が足りないようでね、まとめ役ってのも大変なわけだよ」
「…つまり、お前がレブルブルーのボスってわけか?」
「馬鹿言うな、サボり癖のひどいあの人と、俺を同じに見てもらっちゃ困るな」
「奇遇だな。生憎こっちのボスも随分と行方不明でな」
互いを伺い合うような間があり、そして、青髪が、面倒くさそうに右指を耳に当てる。
何かの合図か、と身構えるが、どうやらそういうわけでもなく。男の耳元から発されたのは、ジジジという発信音だった。
「あぁ。アインに指示を。ここにいる」
「……仲間を呼んだのか?」
青髪はにこやかに笑う。
「そう思うか?」
「今の会話からして、そうとしか思えない」
「その通りだ。俺1人で、君と対峙するなんて無謀なことはしない」
「無謀?お前ら、強いんじゃないのか?」
「俺は、君のいう他の奴らとは違う…さっきも言っただろう?」
「……それはそれは、随分と興味深いな」
「…ところで君は、ここで何をしている?まさか、王殺害を予期しての、早めの待機か?たった1人で?」
「それもある……と言ったら?」
「…邪魔者は排除する。それがボスからの指示だ。それに随分と都合のいい邪魔者で、俺は嬉しいよ」
「都合のいい?」
青髪の男は、青い光沢を放つマントの右胸を掴む。銀のバッチが輝き、彼が、レブルブルーの属の者だと示す。
「俺の名……名乗っておこう。プロト・ヘルメスだ、アダム・アリーダ…といったかな?」
「なんで俺の名前を」
「……君は、ボスに命を狙われている。俺たちはそれに付き合わされている」
「お前たちが、俺を殺すだけのために、セカンドアースへ侵入したわけではないんだろ?つまり、俺がお前らの企みの中で、邪魔だということか?それなら、今現在邪魔なのか…それとも、これから先の未来、邪魔になるのか?」
「……随分と面倒な質問だ、なぁ、アイン?」
いつの間にか、青髪男の後ろに静かに佇んでいた者がいた。赤いローブを羽織い、フードを深く被っていた。毒々しい赤色。フードを外し、アダムを見据える。
「お、お前……」
「久しぶり」
赤く燃え上がるような髪色。同じく紅い瞳。その瞳の色が、まるで、あの頃のイヴのようで、美しかった…。
「…お前に聞きたかったことがある」
第三試験の『実戦』。あの時、アダムが戦わされた相手は、紛れもなくあいつだった。あの赤色は忘れられない。
「…………シーレッド長官。レパート・タイは…何者だ?」
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