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第5章 タロソナ国
7.同化
しおりを挟むそれが戦闘開始の合図だったのか、それとも、戦闘廃棄の合図だったのか、プロトが静かにあげた左手の人差し指を、アインは横目に、銀銃のおとがねから指を離す。
レパートがいったい何者なのか…そんなことを聞いたのは、簡単な疑問からだった。まず、あいつは確実に俺を殺そうとした。それは、本人の口からは直接聞くことのできなかったものだったが、長官室で、レパートが放った銃弾を、クロウが切った瞬間に、全てのことが疑問になった。それは、原点ともいえる、シーレッドの存在から…
「質問に答える気になったのか?」
「……レパート…とはシーレッドの長官であろう?俺が知っているとでも?」
プロトの表情は、実に素っ気なく、アダムは軽く落胆する。
プロトの隣で、アダムを見据える赤髪が、意味ありげな表情を浮かべた、アダムの視線を感じたのか、そっぽを向く。銃口はこちらを向いたままだ。
「そうだ、レパートはシーレッドの長官だ。だけど、俺を殺そうとした。そこの赤髪を使ってな」
プロトが、アインの方を向き、少しだけの沈黙があった。眼鏡の奥からの妙な空気を感じたのか、アインは、銃を下ろし、その場を去った。
「……それはそれは、うちの者の独断での行動でしょう、誠に申し訳ない。確かに、我々はあなたを殺そうとしいる」
プロトのよそよそしい言葉遣いに、アダムは無意識のうちに、眉間にしわを寄せる。
「殺す?何故だ?」
「分からない、ボスの命令だ」
「……ボス?」
「我々のボス。つまり、レブルブルーの長官格である、アク・アルテミス。彼の指示は絶対だ」
「アク……アルテミス…」
プロトの様子から、何かを知っているのは確実だ。だが、こいつが知っている…何故、こいつが知っているのかも分からない。レブルブルーと…シーレッド……敵対しているはずの両組織。
「無駄話はここまでだ。さっきも言ったように、アダム・アリーダ。お前を殺すように、というボスから命令だ。俺たちはお前を殺さなくてはならない」
「それは困るな。ここで俺が死んだら、タロソナ国の王様ってやつもお前らに殺されちゃうんだろ?」
「当たり前だ……アイン!」
アダムは素早く右に移動する。移動した際に、靴が地面と擦れ、火花が散る。次の瞬間、先ほどアダムのいた場所に巨大な火柱が立っていた。まるで、アリダン国でのあの大火災の時のような…
アダムは、ふと上を見上げる。国境見張り門の上に、赤髪の男が立っていた。その瞳の赤さに、かつてのイヴを連想させる。どこか、イヴの面影を感じる、その男に、アダムはポケットから取り出した、漆黒のストレージストーンを投げつけた。
クロウが、黒い靄を身にまとい、ストーンから解放される。見張り門に突進する。それより早くアインが動き、門から飛び降りるが、クロウの行動は早かった。
「右を狙え」
小さなアダムの合図で、クロウは音もなくアインの右足に突進する。赤いしぶきが上がる。クロウの血だ……
「クロウ!」
肉体を損傷し、地面に倒れるクロウの奥で、赤髪の男が、銀銃を指で弄びながら、片足に重心を置き、ダルそうに立っていた。
「貴様ッ……」
「…その武器って、面倒なんだな」
「面倒?お前のその無機質なやつよりかは、随分と従ってくれるが?」
「…それ、ルーラーだろ?誰が作ったんだろうな」
「は?」
「誰が持ってたんだろうな、そんなもの」
「何が言いたい?」
「……地球は、どんな場所だった?…あの時、お前が俺にそう言っただろ?」
「あぁ、確かに言ったな。だけどお前は…」
「…アクチノイド人じゃないよ」
タロソナ城への襲撃が始まったのか、先ほどまでいたレブルブルーの連中の姿はなかった。時間がない…そんなことはわかっている。
「……どうしてお前は…シーレッドではなく、レブルブルーに?」
「…守りたいものがいる……」
「…………守りたいもの…?なんだそれ」
「…お前も、きっとその人を守りたいと思ってるはずだ」
アインの赤い目。赤い目。赤い…赤い……
「イヴ…」
ふと口に出した、その名前に、アダムはこみ上げる何かをぐっとこらえる。
「…生きて……るのか?」
「…………どうだろうね」
「会わせろ……イヴに会わせろ!いるんだろ!?どこにいるんだよ!会わせろ!!」
頬を何かがジリジリと駆けていく。
「……何をしてる?」
アインが、俺の顔を不思議そうに見る。俺はふと頬に手をやる、ザラリとした感触。
「なんだこれ…」
気づけば、収納した覚えのない、クロウの姿が消えていた。
「……あぁ、これが、同化か。恐ろしいな、お前らのルーラーってやつは」
「同化……」
その言葉が何を示しているのかは、なんとなく理解できた。でも、クロウと俺が、同化?どうやって同化を…
『お前の体は、俺がもらう』
「誰だ!」
『お前のルーラーだよ』
「……クロウか?」
脳に直接話しかけてくるかのような、そんな声がした。嗄れた声だ。
「ど、どういうことだよ、同化ってなんだよ!」
『同化。それは俺にお前が乗っ取られることだ、お前の体は、俺の体になる。そして、女王のところへひとっ飛びだ』
「女王?なんだそれ」
『お前が、心から欲している。今、会いたいと願った女のことだ。俺たちの女王だ』
「意味が分からない。どういうことだ?」
『俺たちは、お前らに作られた存在じゃない。俺たちは、女王をお守りし、自身の安全を保つのだ』
「……イヴが、女王だっていうのか?お前らの」
『あぁ、お前が俺と同じ目的を、今この瞬間持った以上、お前と俺の同化は止められない』
目の前に現れた、深い暗がり。
その奥で、見覚えのある、優しい瞳が見えた。
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