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第5章 タロソナ国
9.使命と疑
しおりを挟む壁に張り付き、見るも無残に地に頭を付ける男。
高貴な衣装に身を包み、この世の全てを駒のように転がしてきた、偉そうな王とは似つかない。
「…無様だな」
「お、お許しを!和平を!和平を結べばいいのだろう!?」
「………悪いな、どうやら、俺らのボスは少々気分屋のようだ。気が変わったらしい」
「そ、そんな!だから殺すと言うのか!?」
「あぁ、それ以外に何がある?」
青髪の男は、手にした銀の鎌を高く掲げる。
「……お前が、この鎌で死ねることを願うよ」
黒と青の軌道を描き、鎌が振り下ろされる。男の額を砕き、そして散らせる。
「おぉー!見事な切れ味!」
その言葉を嫌味にしたつもりなのか、ついさっき呼び出したばかりの金髪の男が立っていた。
「到着が早いようだな、フェル」
「プロトこそ、人呼び出しといて、先に殺っちゃうなんて酷くないすかぁ~?」
フェルを囲むレブルブルーの団員たちが、ゾッとするように後方に下がる。フェルの拳にはめられた銀のナックルダスター。彼が、あれを使って何人の味方を、自分の気分次第で殺してきたのか、そんなことは噂でも、伝説でもなく、事実として、組織内でも広まっている。
「仕舞え。お前がそれつけてるとシャレにならない」
フェルは、どこか少し嬉しそうにナックルを見つめ、妙に素直に装備を解除する。
「ところでボスは、今日もいないんすかぁ~?」
「さっき、一応声をかけた。来ると言ってはいたが…」
「さすが、サボり癖のすごいボスっすねぇ~」
「そろそろ登場してもらわないと、困るのだがな」
プロトは、団員たちを見据え、手元の書類に目を落とす。
「で?独断行動はどうだった?任務を無視して、何か得たのか?」
「…うん、面白い奴…見つけたっす」
「……あまり感傷するなよ?どうせ、全員…」
「…おれは、あいつを殺さねぇと気が済まないっすよ、おれの攻撃、真面に食らったのに、あいつ…」
フェルは口元に、今までにない笑みを浮かべる。この手で殺したい。いつものように、そんな感情がよぎるが、何処か違う。殺す?殺さない?違う。殺すしかないんだ…
「アイン先輩はどこに?」
唐突にその名を言いたくなったのは、あくまで無意識だった。
「あぁ、アインなら…またフラフラほっつき回ってるんじゃないのか?」
「おれ、探してきま~す!」
左足を軸に、フェルは180度回転する。回転したタイミングで、銀拳を素早く右手に滑らせ、装備する。金属の高く短いサウンドが、天井の高い広間にこだまする。
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