セカンドアース

第5章 タロソナ国

10.漆な嫉妬

「よっこいしょ！っとぉ」

  艶のある赤髪が、泥腐った地面から這い出した。サラサラした髪の一本一本にこびりつく、泥が硬く凝固した物が、砂埃となって少女の髪から落ちていく。
  頭を一振りすれば、砂埃は、砂風となり辺りに空に切る。

「まったく、ワタシのこと忘れてないでしょうね」

  パラは、地面から頭、胴、足の順にゆっくりと持ち上げていく。

「蟻地獄、解除」

  そのたった一言で、地面に作り出していた、巨大な大穴は、見るも形を無くし、跡形もなく姿を消した。

「あの黒髪はどこいった？」

  独り言。戯言のように、パラはそう吐き捨て、体についた砂を払う。
  話し声が聞こえた。
  若い女と、若めの男の声だ。
  どちらの声にも聞き覚えがあった。
  緊張感を帯びさせた、その二つの声に、パラは耳を傾ける。周辺に散らかった石のブロックの影から顔を出す。
  幾度となく、パラの視界を塞ぐ砂埃。見覚えのある男の、姿形がパラの目に映る。

「……レパートさ…………」

  レパートの隣に誰かいる。若い女だ。
  パラは、出かけた体を、再びブロック塀に隠す。隙間を指先で探し、そこから片目を覗かせた。
  ミアナの手を引くレパートの姿が、すぐ目の前を横切った。抵抗するかのようなミアナを半ば引きずり、レパートが何かを話しかけているようだった。

「待って！レパート！どこへ行くの！？二人だけじゃ…」
「…もしもの時は、僕の後ろに隠れていればいい。無理矢理にでも、連れて行くよ」
「アタシをどうするつもりなの？」
「……どうもしないよ」

  ブロンドの若い女。名はミアナ・アンジュリー。
  パラは、感情を露わにした拳をブロック塀に打ち付ける。ブロックとブロックの間から、砂埃が巻き上がり、パラの内面も、外面も黒く染める。

「……ミアナ…………アンジュリー…」