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過去編 遠い日の
1.写るもの
しおりを挟む温かさの中に、じわりじわりと押し寄せる熱気。黒髪の少年が一人、青く広がる草原の中央で、眩しい陽射しに腕をかざし、寝そべっていた。
少年、アダムは考えていた。
先ほどまでに考えていた、その内容が、一体どんなものであったのか、それを考えていた。
諦め際に、大きくため息。
ほぼ同時に、顔の近く、草原を踏みつける音がした。
視界を遮る腕を少しだけずらし、頭の向きを変えず、視線だけを横に誘導する。
白い裸足が、見えた。
アダムは、その人物に思い当たりがあった。というか、その人物であってほしい、と願った。
「良い天気だね、私、この天気好きだな」
黒のロングヘアが、風に揺れている。ルビーレッドの綺麗な瞳が上を見上げていた。
正解だった。
「……つまらない日常。なんじゃないのか?」
「ううん、何かが起きそうな予感がするじゃない?だから、好きなの」
「何かが起きそう?例えば?」
「例えば~、あ!パレードとか?」
アダムは、脳裏で何かが騒つくのを感じた。
何年か前、タロソナ国で行われたパレードのことだ。
「今年はどんなパレードになってるのかなーあ!確か、明日じゃなかった?」
「……え、いや、たぶん、もう終わったんじゃないかな?残念だったね」
「よし、行こう!ね?行きたいでしょ?」
「行きたくない」
「そうと決まれば、出発だね!」
「え…だから、行かな……」
「……ヤドクとブームも楽しみにしてるの!今年はみんなで行こうね!」
イヴはそう言って、強引に話を進める。いつだってそうだ。
「俺は行かない!」
「なんで?」
「だって……」
「あーあー、あの勧誘。ってやつが嫌なんでしょー!また女の子に間違われちゃうから?」
「さ、さすがに、それはもうないと思うけど……」
「それはどうかな~、アダム、今でも可愛い顔してるもんね」
「違う!俺は踊り子なんて断じてやらない!」
「やれとは言ってないでしょ?」
「…お、俺はただ……イヴが心配で」
イヴは一瞬、戯けたような表情を作る。が、その表情は笑顔で塗りつぶされ、その代わりに俺と同じ視線に、腰を下ろした。
「私の何が心配なの?」
「……だって、勧誘…」
「乗らないよ。私、そんな安い女の子になんて、なる予定ないもん」
アダムは、イヴの横顔を見る。やっぱり、イヴの視線の先には空が写っていた。青い空だ。イヴがよく「つまらない日常」と言っていた、あの空だ。
アダムは、イヴに問うていた。
「俺も、写ってる?」
無意識だった。
「写ってるよ」
それも、きっと、無意識だったのだろう。
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