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過去編 遠い日の
4.濡れた黒髪
しおりを挟む面倒だな。
隣で、酷い傷を負った少年。たぶん、同い年ぐらいだろうか。黒髪は、昨夜降った雨のせいか、それまでに起こった何かか、濡れていた。滴り落ちる雫の一滴、一滴を、床にシミを作るまで上目遣いに睨みつける少年の目が、これまでの出来事を鮮明に語っていた。
「なぁなぁ、オレら、どーなっちゃうわけ?」
「怒られる」
「そんなこと分かってるけどさぁ~」
ヤドクのすぐ隣で、落ち着きのないブームが、移動式スタイルの椅子の上で、グルグルと回転する。
昨夜の出来事だった。
雨が降っている。傘をさす者の姿はなく、絶好の空き巣日和だった。
ヤドクとブームの双子は、慣れた手つきで家の鍵をこじ開け、3分と経たない内に中に侵入した。
「お!これ高そうじゃね!?」
「ゴンさんはかなり金持ちだって噂だもんね、どれも高級品なんじゃないかな」
「なら、全部もらってくかな」
一仕事を終え、2人並んで、遠足帰り。とでもいうように敷地外へ出る。そして捕まった。
「なんでバレたんだろ?今までのはバレなかったのにね!」
「誰かが通報したんじゃないの?」
しばらくすると、青い制服に身を包んだ男が、机を挟んだ向かい側に座った。外見からして、かなり若そうだ。新人だろうか。子供だからといって、新入テストのつもりなのか?
「で?君達はどうしてこんなことを?」
「母親に捨てられたんだ」
「母親は、知らない男を連れてた、きっとそういう関係なんだよ」
「だからボクらが要らなくなった」
「結果的に、オレたちは追い払われた」
「「だから盗んだ、悪いのは大人でしょ?」」
簡単なことだった。本当のことだ。悪くない。
新人は、少し戸惑ったように右側に配置されたガラス窓を見る。きっと、ガラス窓は向こうからこちらが見える仕組みで、ガラスの向こうから、お偉い達が新人の腕前を見ているところなのだろう。
ざまぁみろ。とブームが白い歯を見せ、嘲笑した。
大人は、こういうもんだ。
「虐待か、酷いな」
その言葉に、ヤドクは左を見る。声を発したのは、隣で事情聴取を受けていた、ずぶ濡れの少年の担当警官だった。困り果てた、とでもいうように頭をかきむしっていた。
黒髪の少年が、黒いシミを作った、細く白い足で立ち上がろうとする。
「帰らなくちゃ」
少年の小さな声が、ヤドクの耳に届いた。
帰る場所。
ふと、ヤドクの視線を感じたのか、一瞬だけ、少年の気がこちらに向いたような気がした。ヤドクは、今にも顔の向きを変えようと身構えるが、少年はこちらを見ることなく立ち上がった。
白く骨ばった体つきだが、凛とした、しかし、どこか意思の弱い漆黒の瞳の色。整った顔立ち。かなりの美少年だ。
「か、帰るって言っても、君。そのままじゃ…」
「…死ぬよ。知ってる」
衝撃的だった。ヤドクにとって、その少年が発した言葉は、とても強いものだった。
「……ブーム。悪いのは……大人たち、だけじゃないのかもしれない」
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