セカンドアース

三角 帝

文字の大きさ
55 / 185
過去編 遠い日の

4.濡れた黒髪

しおりを挟む

  面倒だな。
  隣で、酷い傷を負った少年。たぶん、同い年ぐらいだろうか。黒髪は、昨夜降った雨のせいか、それまでに起こった何かか、濡れていた。滴り落ちる雫の一滴、一滴を、床にシミを作るまで上目遣いに睨みつける少年の目が、これまでの出来事を鮮明に語っていた。

「なぁなぁ、オレら、どーなっちゃうわけ?」
「怒られる」
「そんなこと分かってるけどさぁ~」

  ヤドクのすぐ隣で、落ち着きのないブームが、移動式スタイルの椅子の上で、グルグルと回転する。
  
  昨夜の出来事だった。
  雨が降っている。傘をさす者の姿はなく、絶好の空き巣日和だった。
  ヤドクとブームの双子は、慣れた手つきで家の鍵をこじ開け、3分と経たない内に中に侵入した。

「お!これ高そうじゃね!?」
「ゴンさんはかなり金持ちだって噂だもんね、どれも高級品なんじゃないかな」
「なら、全部もらってくかな」

  一仕事を終え、2人並んで、遠足帰り。とでもいうように敷地外へ出る。そして捕まった。

「なんでバレたんだろ?今までのはバレなかったのにね!」
「誰かが通報したんじゃないの?」

  しばらくすると、青い制服に身を包んだ男が、机を挟んだ向かい側に座った。外見からして、かなり若そうだ。新人だろうか。子供だからといって、新入テストのつもりなのか?

「で?君達はどうしてこんなことを?」
「母親に捨てられたんだ」
「母親は、知らない男を連れてた、きっとそういう関係なんだよ」
「だからボクらが要らなくなった」
「結果的に、オレたちは追い払われた」
「「だから盗んだ、悪いのは大人でしょ?」」

  簡単なことだった。本当のことだ。悪くない。
  新人は、少し戸惑ったように右側に配置されたガラス窓を見る。きっと、ガラス窓は向こうからこちらが見える仕組みで、ガラスの向こうから、お偉い達が新人の腕前を見ているところなのだろう。
  ざまぁみろ。とブームが白い歯を見せ、嘲笑した。
  大人は、こういうもんだ。

「虐待か、酷いな」

  その言葉に、ヤドクは左を見る。声を発したのは、隣で事情聴取を受けていた、ずぶ濡れの少年の担当警官だった。困り果てた、とでもいうように頭をかきむしっていた。
  黒髪の少年が、黒いシミを作った、細く白い足で立ち上がろうとする。

「帰らなくちゃ」

  少年の小さな声が、ヤドクの耳に届いた。
  帰る場所。
  ふと、ヤドクの視線を感じたのか、一瞬だけ、少年の気がこちらに向いたような気がした。ヤドクは、今にも顔の向きを変えようと身構えるが、少年はこちらを見ることなく立ち上がった。
  白く骨ばった体つきだが、凛とした、しかし、どこか意思の弱い漆黒の瞳の色。整った顔立ち。かなりの美少年だ。

「か、帰るって言っても、君。そのままじゃ…」
「…死ぬよ。知ってる」

  衝撃的だった。ヤドクにとって、その少年が発した言葉は、とても強いものだった。

「……ブーム。悪いのは……大人たち、だけじゃないのかもしれない」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...