セカンドアース

三角 帝

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過去編 遠い日の

8.優しい手

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「ねぇ、アダム?」
「ん?」
「……トイレなんて嘘ついて、どうしちゃったの?」
「嘘じゃないけど?」
「え、あ、そうだったの!?そ、その…付いて来ちゃって不味かった?」
「別に、どーでもいいけど?」

  アダムの黒髪。ミアナは振り返ってほしいと願い、何度も声をかける。人混みで掻き消されそうな声を、なんとか届かせようと、声を張り上げていたせいか、喉からキュ~という、不可解な音がする。明日の朝は、声枯れちゃうのかな。などと思いながらも、声をかけ続ける。

「きゃっ!」

  人混みの中の一人に肩が当たり、体ごと後ろへ持って行かれ尻餅をつく。背の高い人の壁に押し潰されそうになる。立ち上がろうとするが、ミアナの存在に気づかない人の集りから逃れるだけで精一杯だった。
  そんな時に、一本の腕がこちらに向かって伸びてきた。白くて、細いのに、程よく筋肉のついた男らしい手。いや、男らしい…とは程遠いが、少年の優しい手だった。
  ミアナは、無我夢中でその手にしがみつく、勢いよく体が持ち上げられ、視界の先が、暗闇から明るいパレードのライトで満たされる。

「あ、ありがとう」

  平然と、ミアナを持ち上げた黒髪の少年は、お礼の言葉に、なんの返答もなく、再び歩き出した。

「パレードは…見ないの?」
「見ない」
「どうして?」
「どうして見なくちゃならない?」
「見たくないの?」
「見たくない」

  そんなはずなかった。我慢してる。
  きっと、イヴならそう言っても許されるのかな。ミアナはズキリと痛む胸を撫で、気持ちを切り替える。
  今、アダムの前にいるのは、イヴではなく、アタシなのだ。負けてはならない。たとえそれが……

「お!君、随分といい顔立ちしてるねーどうどう?踊り子やらない?」
「俺…男だけど」

  目の前を歩いていた黒髪が、ふと足を止める。背中越しに覗いてみると、スーツ姿の、如何にも怪しいちょび髭の男が、アダムをせき止めているところだった。

「おぉ!!今日の僕は運が良いのだろうか!こっちには、彼女ちゃんが!これまた随分と可愛いなぁ~」

  スーツ男の手が、こちらに向かって伸ばされる。アダムがくれた優しさとは違う、全然違う、手。

「なにやんだよ、テメェ」

  後方に突き飛ばされる感覚があって、いつの間にかつぶっていた目を開ける。ミアナを庇って突き出された……さっきと同じ手。大好きな手だ。

「ありゃ、これはこれは失礼!デートを邪魔しちゃってすまなかったねぇ」

  にやけ笑いのスーツ男に、ちょっとだけ感謝したのは、アタシの中の汚い自分。
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