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過去編 遠い日の
9.笑えるほど
しおりを挟む「どうしたの?そんなに顔、赤くしちゃって」
のどかな風が、頬を撫でる。そんな昼下がりの頃。俺の目の前に現れたのは、信じられないぐらい綺麗な…少女だった。
緊張のあまり、少女の足元ばかりに目をやる。白くて細い素足。
「おかしいかな。やっぱ、靴履かないとね」
照れたように笑う、少女のルビーレッドの瞳。珍しい色に、まるで吸い寄せられるかのようだった。
「なんて名前なの?」
「……へ?」
少女は、チョコンと俺の横に腰掛け、顔を覗き込んできた。あたりに満ちた太陽のあかりが一心に彼女を照らすようで、彼女の肌が、今にも透けるのではないか、と心配する。
「アダム…アリーダ。君は?」
「私はイヴ・ターニア!実は、あなたと同じ孤児院で暮らしてるんだよ?」
「嘘だ。君みたいな子、見たことないけど」
「私のほうが一応先輩なんだからねー!ずっと見てたんだよーアダムのこと」
名前を呼ばれ、特別に感じる。
「イ、イヴなんて、見たことなんか…ない」
「酷いな~。あなたが来た頃、ちょうど病気してて、部屋の外に出られなかったのー!」
イヴは頬を膨らませ、そして吹き出した。
「な、なんだよ」
「ふふ…いや、ちょっとね。アダムって、意外と面白い人だなって思って。来た時なんか、ムスッてしてて、絡みずらそうだったもん」
風が一際強く吹く。彼女の黒髪が流れる。いい香りだ。触れたいと思った。
「双子には会った?」
「双子?」
「うん!この孤児院で問題児って言われてる、ヤドクとブームの双子のことだよ。それと、ミアナって女の子!」
「へー、それが?」
「今度、そのみんなでパレード行こうってなって」
「ふーん」
「アダムも行かない?」
一瞬、耳を疑った。
「ねぇ、どうしたの?」
「……いや、俺は…」
「行こうよ、ね?絶対、楽しいから」
「行かない」
少女の赤い瞳が、少しだけ暗い影を落とした。息を飲むようにして、アダムは彼女の応答を待つ。
「馬鹿…」
「…仕方ないだろ、そんなとこ、行きたくねーよ」
「違う。行きたい。我慢してる」
「だから行きたく……」
気づけばイヴの顔が、目と鼻の先にあった。彼女の体温を感じた。避けようにも、避けられない。
「あの孤児院に入ってる子ってね…みんな。いろんな境遇があるんだ。私もそう…家族を亡くして、唯一生き残ったお兄ちゃんと一緒に暮らしてた。だけど、お兄ちゃん…仕事に行ったっきり、帰ってこなくなっちゃって、あの孤児院に引き取られたの。あなただって、何かあって、あそこにいる……そうでしょ?」
分からない。忘れた。いや、今もここにある。
「……俺も、残ってる」
そう言って、服の裾をめくり上げる。
赤黒く滲んだシミが、腹から胸にかけてを何重にも重なっていた。みんな、それを見て『可哀想』だの『酷い』だの、そんな言葉を残す。それだけで、何かをしてくれるわけではなかった。
「無理に忘れなくていい。それも、思い出にしちゃえるぐらい、笑おうよ。そのほうが、楽しいでしょ?」
笑えるほど、馬鹿げた言葉に。
笑えるほど、綺麗な笑顔に。
笑えるほど、馬鹿な自分。
俺は、初めて誰かに救われる。
ということが分かった。
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