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第6章 ナジプト国
3.交差する少年像
しおりを挟む「……お前らしくないな」
銀の軌道を残し、悠々と上空を飛行する銀の鎌。銀鎌。
プロトは、後ろでふて腐れているであろう青年を振り返った。案の定、アインは、黙り込み、何を言っても口を聞きそうになかった。
「あんなことして、ボスにバレたらどうなるかぐらい、お前にも分かるだろう」
「もうバレてる」
「ま、そうかもな」
「バレてなきゃ、あいつの殺し役なんて俺じゃなくても構わないだろ、フェルとかノーベとか」
「でも良かったじゃないか、殺さない程度に手加減すればいいだろう」
「手加減できないんだよ、こいつを撃ったら、確実にあたる。当たれば死ぬ」
アインは、腰に下げた銀銃を見る。
「アリダンの大火災でも、そいつは大活躍だったもんな」
「……黙れ」
「いいじゃないか、面白い銃で」
プロトは、冷やかすように笑う。
「いいなりになるのも、これで終わりにすればいいんじゃないのか?また、見つけ出した物を利用されるぞ」
「余計なお世話だ」
アインは体の向きを変え、鎌の端に立つ。
「おいおい、ここ地上何メートルだと思ってる」
「ざっと見、200ぐらい」
「飛び降り自殺かよ、俺の鎌では裁けないぞ」
「いちいちうぜぇな」
アインは宙に飛び出した。風を切り、腰の銃を装備する。紫色の綺麗な屋根瓦が立ち並んでいた。左耳の発信機がジジジと音を立てる。
『ナジプト城、シーレッド軍出動が確認された。至急、ナジプト城周辺待機命令』
それに応答することなく、一軒の屋根瓦に銃口を向ける。銃弾がめり込み、音のない爆発を起こす、巨大な火柱が垂直に伸び、その周りを赤い煙が取り巻く。
屋根瓦から飛び散った破片が、こちらに向かって飛んでくる、その破片を右足で蹴り落下速度を落とし、また破片を蹴り落下速度を落とす。それを繰り返し、静かに地上に降り立った。
ふと顔を上げる。黒く煤けた頬の少年が立っていた。銀銃によって破損され、炎の中に飲み込まれた住宅街が隣に見えた。きっと、少年の家も、この住宅街の何処かにあったのだろう。まるで、あの時の少年のようだ。家族を失い、何もかもを自分自身で奪った、臆病な…赤髪の少年のようだ。
アインは、息を潜めるようにしてその場を去ろうとした。
「お兄ちゃん」
動機が走った。次に少年が口にする言葉が怖かった。
「……戻ってきてよ」
「え…」
振り返るが、そこに少年の姿はなかった。
「やっぱアイン先輩でしたかー!急に火が上がったんで、なんだろと思って来たんすよー」
上を見上げると、燃えかすと化した屋根の上に、金髪の男が座っていた。
「…フェル……このぐらいの少年。見なかったか?」
アインは人差し指と親指で、少年の背を表した。
「え、それ小さ過ぎません?見なかったですけど、殺し損ねたんすか?」
「いや、ならいいんだ」
「ふーん、あ、そうそう、ノーベの奴が帰ってきたんすよ~」
「いなかったのか?」
「え!?ひ、ヒドッ!ノーベ、巨大な蟻地獄に落とされたんですよ?見てませんでした?」
「あぁ、確か、そんなことがあったな、蟻のルーラー…だったか?」
「それっす、それっす!おれたちも早く行ってさっさと任務終わらせちゃいましょーよ!」
フェルはそう言うと、二ヒヒと笑い、右足を軸に、左足で空に線を作り回転する。銀のナックルが一瞬光ったかと思うと、そこにフェルの姿はなくなっていた。
続けて、アインも向きを変え、屋根の上に飛び移る。
「待ってるから」
少年の声がした。
慌てて振り返るが、誰もいない。
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