セカンドアース

第6章 ナジプト国

10.銃弾と風

  隣にある、少し高めの少年の肩が震えた。
  軋んだ扉を開けると、青髪の男が窓越しに背を持たれ、怠そうに外を見上げている。

「貴様…ッ」

  パラは飛び出したスネークの首を掴み、ブームの襟元を後ろから鷲掴みにする。

「馬鹿！あいつと殺り合うなんて正気！？そんなことしたら…」
「…わかってるよ」

  悔しげに歯を食いしばり、ブームは一歩引いた。

「何故、国王を殺していく……セカンドアースを支配するためにか？」

  ブームの問いに、手元の書類に目を落としていた男は、眼鏡を人差し指で押し上げる。角度を変えた眼鏡のフレームが、加減でこちらに鋭い光を向けた。

「……まぁな、我々はただ単に、上からの指示で動いている。それだけだ」

  紫色の豪勢な衣装は、金箔と白箔をまとい、その上から血が塗り重なっていた。脱力し、肌を白く染めたその国王が、男の足元に転がっていた。

「……逃げるぞ、ブーム」
「駄目だ、ここで逃げるわけにはいかない」
「だが！」
「安心しろ、俺から逃げてやるよ」

  顔をあげると、男の姿は既になく、残ったのは、カーテンを揺らす風の音と、冷たい呼吸音だけだった。
  静まり返った部屋に、突如、銃声がした。続けて悲鳴も重なった。
  聞き覚えのある、その悲鳴。

「ミアナの悲鳴だ。戻ろうパラ」
「お、ちょっと待ちなさいよ！」

  元来た通りに全力で駆け、長く永遠と続く螺旋階段を反るように下り、外へと続く大扉を両サイドに開け放った。

「……ヤドク…？」

  まず目に映ったのは、小銃を片手で構え、視線を落としたヤドクの姿だった。銃口の先で、嗚咽をあげながらミアナがうずくまっている。ミアナの陰から、見覚えのある黒髪がゆらりゆらりと見えた。

「……どうなってんだよ…………」

  体が言うことを聞かなかった。
  アダムの左胸に、大きな穴が開いた。ただそれだけのことだった。穴の中で、熱を帯びたその銃弾は、アダムの大切なものを貫き、そして深く抉りこんだのだろうか。アダムの肩から?据がれたようなボロボロの黒い翼が垂れ下がっていた。

『……殺される。危険だとシーレッド内で騒がれて、アダムの居場所はなくなるんだ。そうなるぐらいだったら、ボクがこの手で、アダムを楽にするよ』

  そう言ったヤドクのあの目を思い出す。全て自分が背負うと語る、あの目を……

  風が吹いた。アダムの背にあった、黒い翼が遂に消滅し、冷たく固まったアダムに、ミアナの温かな涙が伝った。

  ブームは、空を仰ぎ、幼い頃五人で見上げた、パレードの灯りを思い出す。