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第6章 ナジプト国
9.風吹く黒色
しおりを挟む上から何かが降ってきた。
黒い何かだ。無抵抗なそれは、半透明なシールドに吸い込まれるように逆さに落ちてくる。数秒後、べちょっという、どうにも耳に良くないサウンドを轟かせ、その物体はシールドに張り付いた。
「あれ…って」
「アダムだ」
「アダムよね」
ヤドクとミアナは顔を見合わせ、その物体を見上げた。焦げた黒い羽が、風に吹かれ粉々になって舞っていた。少年の肩骨辺りから、抉るように生えたその羽に、ミアナはふと嫌な予感がし、慌ててシールドを解く。
力なく横たわった黒髪の少年を、ミアナはぎゅっと抱きしめ、こぼれ落ちる涙を拭った。
「アダム…いったいどうしてこんな……」
彼から生えた羽は、ボキボキに折れ、白い肌には黒い煤がこびりついていた。
「同化…か?」
ミアナがヤドクを振り返り、その顔にある種の驚きと恐怖を読み取った。
「誰にも言わないよ、言ったらアダム、殺されちゃうもんね」
「……まだ完全な同化はしてないわ。彼は、彼はきっと…まだ自分の意思で……」
祈るように抱きしめ、いつの間にか目元を拭うのさえ忘れていた。荒い息が、ふと切り替わり、何か違う予感が走った。ミアナはアダムの整った顔を穴が開くほど見つめた。ゆっくりと開かれたその瞳に、ミアナは顔をしわくちゃにして笑う。
「大丈夫、何も心配いらないわ、大丈夫だから」
そう固く抱きしめる。アダムはミアナの腕を振り解き、よろりと立ち上がった。ヤドクはおかえりと笑いかける。アダムの両眼が赤黒く渦を描いていた。漆黒の色に、赤い血が滲んだようなその色に、ヤドクは息を飲む。それを誤魔化すように悲しそうに微笑んだ。
同化していた。
クロウの色が、アダムの中に入り、着実に体を蝕んでいる。僅かな抵抗か、アダムの意思は残ったものの、力の制御がままならないのか、アダムは唸り、もがき、地面にしがみついた。食いしばった歯の間から、静かに赤い水滴が落ちる。
「……ミアナ。下がってて…………」
ヤドクはそっと腰の銃を手にする。
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