セカンドアース

三角 帝

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第7章 ハリスナ国

1.銀色の孤独人

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  焼けただれて、鼻に絡む切なげな匂い。跡形もなく消え失せた民家の一帯。唯一、原型を最大限に保ち、残った屋根も、元の色がどんな色なのかも分からず、ただそこに存在していた。
  ふと見上げた空も、紅く染まっていて、どろんとした心の隅に、痛く滲みた。
  白い光沢が見えた。

「久しぶりだな、ノーベ」

  肌に染み付いた、嘲笑うような色が、銀眼に映る。白のマントが空気をえぐり、男はゆっくりと立ち上がる。まるで、この世の重力など自身には効かない。とでも言うような。

「……アクか…随分と長い留守だったみたいだが……ボスのお前がいなかったから、不満だったみたいだぞ」
「ふ、勝手にしてろ。お前たちの数々のご自由ぶりに関心していた頃合いだ」
「…………もうやめろ。こんなことをして何になる?」

  アクは、若い横顔を冷酷に染め、遠くを見据える。

「お前に何が分かるって言うんだ」
「…おれは、お前が産まれる前から、お前の父親に仕えていた。お前が今やろうとしていることは、父親の望む逆のことだ」
「それがどうした?あんな奴の望み通りに僕が動くとでも?」
「……こんなことに意味はない。ここの王が滅びてしまえば、アクチノイドの未来はない」
「何故だ?王を全て殺し、そしてこの僕が、セカンドアースの王になる!これで全ては丸く収まるのではないか?」
「……」
「それとも、この僕が王になることで、何か都合の悪いことでも?」

  アクは、くるりとノーベを振り返る。緑色の大男を見て、馬鹿だと鼻で笑った。

「それに、お前は気味が悪いんだよ。ローレンだったか?あいつの両親がここの奴らに殺されて、それで保護者代わりか!?哀れに思って、面倒見のいい兄貴を装ってるのか?家族ごっこはもう見るのも懲り懲りだ」
「ローレンを悪く言うな…あいつは、何も関係ない」
「あぁ、関係ないとも。だがな、僕は関係ないと言い張る奴が一番嫌いなんだよ」

  アクが屋根から飛び降り、大袈裟な素振りで着地する。両手を高くあげ、その手の内が煌々と輝く。ノーベは腰に下げた銀の光沢を帯びた斧に手をかける。

「馬鹿にされては困るな」

  そう白髪が笑う、ゆっくりと頬に刻まれていく笑みが、スローモーションのように視界をかすめ、消えた。眼と鼻の先で、血液らしき見慣れたしぶきが上がり、それを追って襲う痛みに、ノーベは背中から砕けるように倒れる。
  銀色の瞳から、一筋の光線を血走らせた、自分とは一回りほども幼い青年が、限りなく、そして計り知れない憎悪と、殺意に、息をあげているのが伝わった。

「……お前は、ここで、死ぬ」
「そうだな…そのようだ」

  最後だと目を閉じる。
  アクの叫びが、耳にしみ、それが快楽の叫びでなく、虚しく孤独に震える、たった一人の少年の心がなすものだと、ノーベは初めて分かった気がした。
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