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第7章 ハリスナ国
7.核の正体
しおりを挟む「ヤドク?」
ブームの不安そうな表情が、髪で隠れた視界の端から覗き込んできた。目尻が熱かった。
「イヴ……核の正体は、彼女なんだ」
ブームの柔らかい表情が、ゆっくりとジワリジワリと固くなり、そして青ざめる。それが、目の前の国王へのものになる前に、ヤドクは体制を整える。
「お前たち研究者が、核の実験に使ったのは…ボクらの幼なじみ…いや、家族だ」
「ははは、んなこと言われたって、我には関係のないことじゃ、その娘を連れてきたのはレパートなのだからな」
「……レパートが…レパートがイヴを…なんでだよ!なんでそんなことをする必要がある!」
ブームの額が深緑の筋を浮き出させ、脈動を通ってうねるように身体中を走る。発動前のスネークの輝きに、ヤドクはミアナの方を見た。未だに針先を突きつけられたミアナの苦しそうな表情に、ヤドクはブームの団服の袖を引っ張る。
「……誰でも良かったんだよ。きっと。あの日、アリダン国の火災後に発見した少女なんて、家族はもう存在しないと考えたんだろう。跡地に残された奴なんて、捨てられたも同然だったんだ」
「…イヴは……」
「……生きてたんだ」
ブームの体の力が抜け、無気力な吐息だけが残った。
ブームの頬を、熱い何かが伝った。ヤドクはブームのそれを雑に拭い、国王に向き直る。平然とした態度の王の膝で、あらゆる恐怖に震えるミアナの頬にも、静かに伝うものがあった。
「だから…アダムは同化する危険性が人よりも高かった。アダムはイヴを愛していた…それは、クロウや、その他のルーラー達が核に対して守護を行う心理と、実によく似ている。だから、同化が起こってしまった。同化現象とは、言わば、結合者がルーラーに肉体を乗っ取られてしまう現象のこと。同化すると、その肉体は結合者のものではなく、自我を持ったルーラーのものとなり、そいつは核の下へ行く」
何が悪い?とでもいうような、意地っ張りな口元を浮かべ、国王はヤドクを見下ろす。その目が淀んでいることに気づき、もっと恐ろしい何かを思い浮かべるが、知りたかったことはこれだけだと視線を逸らす。
「そんなの……酷い…」
ミアナの嗚咽が耳に届き、ヤドクは全身が震えるような感覚に襲われた。
「黙れ!このメスが!貴様は我々の第二の実験体になるのじゃ!無駄口は叩くな!」
国王がミアナにそう唾を吐き、ミアナの小さな悲鳴が空間を直接押しのけ、ヤドクの神経の何処かを揺らす。
実験体…こいつらは、まだ何かを企んでいる。
「…実験体とは……もしかして、第一実験体であるイヴの武器化が成功しないから、また新しい実験を考えているのですか?」
「あぁ、もちろんだ。我々王はその実験を繰り返していた。だがな、核完成という段階から失敗を重ねているのだよ。実験体は皆消滅してしまった」
消滅という意味が、こいつらにとっては人間の死ではなく、実験体のゴミ化なのだ。
「……ごめん。ブーム…ボク、マキダムに入っても構わないよ…」
泣きべそをかくブームが、深緑の瞳をこちらに向け、ヤドクの表情を水晶に移した。
相変わらずボクは、随分と強がりな顔をしている。
腰から拳銃を抜き取り、ゆっくりと前方に構える。
標的はもちろん、最後の国王。
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