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第8章 マキダム牢獄
3.マキダム牢獄
しおりを挟む「お前さんは…クロウと同化したのだろう?」
老人の銀色の真剣さに、ジワリと額に汗が染み出す。何処か胸騒ぎがするような、そんな感覚に陥り、ざわりと身体中の毛が逆撫でされ、耳を澄ませば、囁くような声を聞くことだってできそうだ。
「……同化したら…どうなるんだ?」
老人は、一度アダムを睨むように上目遣いをすると、ガラリと表情を変え、またいつもの微笑みを浮かべた。
「そんなこと、わたしには分からないよ」
「ゲッ…な、ならなんで同化とか、んなこと知ってんだよ!つか、お前誰だよ!」
古びた牢獄の鉄骨を指先で撫でながら、老人は僅かに射し込む光に目を細めた。
マキダム牢獄。セカンドアース内で、かつて殺人や強盗、あらゆるそれらの出来事が連続して起こった、人間たちの営みの地。いつの間にかそこには、鉄とコンクリートで建造された立派な牢獄が建ち。マキダム国はマキダム牢獄へと変貌したのだ。犯罪者、その他ホームレスがドロドロと日々、金と食と住処を探して生活をする、その牢獄に、一人の老人がいる。そして、自分に話しかけている。
ふと自身の団服を見下ろす。
金の装飾だって、もしかすると純金かもしれないし、この馬鹿固い革だって、どこぞかのブランド革かもしれない。
もう一度、老人の後ろ姿を見る。その頼りない背に穴が開かんかとばかり見つめるが、老人はただひたすら空を仰ぐだけだった。
「…わたしは、お前さんが思ってるような、犯罪者やそれらとは違うぞ。お前さんの装束に対しての金目な下心もないしな」
それ言ってる時点で若干あんだろ。
「わたしはな…ただのじじいだよ」
「楽しくねぇな。これからここで生活すんならもっとネタがねぇと暇死にするだろ?」
老人は、アダムを振り返り、人差し指をこちらへ突き立てた。何か魔法系のソレを使うのかと身構えるが、老人はそのような力は兼ね備えてないようで、ただ失礼に人の顔を指差しているようだった。
「え?なんかついてる?」
「あぁ、ついてる」
頬を両手でベタベタと触るが、何も感じない。感じるのは、泥や砂で汚れた肌のザラザラ感のみだ。
「なんもついてねぇだろ?」
「ついてる」
気になり、近くでヒタヒタと水たまりをつくる空間に顔を覗かせる。射し込む光との錯覚で自分の冴えない顔が薄っすらと映し出された。
「…ヒッ……」
頬を覆う、黒い模様。
ギザギザと刃を尖らせた、何かの羽根のような、そんな形が連なって耳元から目尻にかけてを這っていた。瞳孔の大きく開いた目も、自分のものではなく、赤く血走り、今にも抉りでそうな色をしていた。
「ど、どういうことだよ!」
これが、同化だ。
老人のいう同化というものなんだ。
クロウに体が乗っ取られてしまったのだ。
「脳まではまだのようだな…今の内に全てを話しておいたほうがよかろう」
老人はそうボヤくと、静かに呼吸を整え、アダムと向き合う。
「一つ…昔話を聞いてくれないか?」
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