セカンドアース

三角 帝

文字の大きさ
101 / 185
第9章 ヤカロザ決戦

4.紅い中

しおりを挟む

  スラム街を思わせる、かつての賑やかな面影を残す飲み屋の看板さえも、夜を照らしていたネオンの街灯を黒く淀ませていた。
  排水口から立ち込める、蒸せるような熱気と、どこからともなく体内へ侵入しようとするガス漏れの臭い。
  黒いコートの襟首を両手で逆立て、短いスカートの隙間から肌を刺す冷たい空気に肩を怒らせた。
  
「上手くやってよね」
「は、はい!」

  パラはそれだけを言い残し、ブーツの底を鳴らしながらその場を去った。
  その言葉が、ミアナの背中を押したのか…それとも、背中を睨んだのかは定かではないが、ミアナは固く拳を握りしめ、自分なりに気合いを入れた。
  これが最終決戦なのだ。
  そう心に言い聞かせ、空を見上げる。
  空がおかしい。所々、空気が揺れて見えた。
  目を凝らすと、緑と黄の短い光の筋同士がぶつかり合い、火花を散らしているところだった。かなりのスピードだ。あんなスピードが出せるのは…
  慌てて通信機を耳に押し当てる。

「ヤドク!あれってブームと………」
『あぁ、ブームとフェルの戦闘が始まった。ミアナは援護に回ってくれ』
「そんな……ブームはまだ怪我してるわ!」
『それでもあいつは戦うんだ』
「……分かった。範囲は?」
『ヤカロザ門から、中央ゲートまでを閉じてくれれば、それでいい』
「了解」

  通信機が切れるのを合図に、ミアナは勢いよく地面を蹴る。ポケットからストレージストーンを取り出し、突き当たりの壁にぶち当てた。ストーンが割れ、中から巨大な白い物体が姿を現す。ミアナはそれを確認することなく跨ると、手綱をきった。兎の巨体が上下を揺れるたびに、僅かな振動と、着地するたびに移り変わる景色を眺める。

「ラビット!中央ゲート前までアタシを運んで!」

  空の上では相変わらず二つの光が交差しているところだった。
  空に気を取られていると、ラビットの動きが少しだけぶれた。急いで正面に向き直ると、そこには多くのレブルブルー軍がこちらに向かって攻撃を仕掛けてくるところだった。白の団服を身に纏った男たちが、深く被った帽子で表情を隠し、銃を構えてくる。その上を、先ほどより少し高く飛び銃弾を回避する、横断歩道を右に回り、大きく飛び大型ビルの屋上へ移動した。

ギュゴゴゴゴゴゴ

  ラビットの体が大きく揺れ、危うく振り落とされそうになる。体勢を整え、広々とした屋上を見渡す。古びた貯水タンクの上に、一人の男が立っていた。
  赤いフードの下から覗く、口元はピクリとも動かず、男を不気味に見せるそのフードを、突風が勢いよく飛ばす。露わになったその赤毛に、ミアナは一瞬足をすくませたが、パラの言葉を思い出し、半ば無理矢理に体を起こす。

「レブルブルー…アイン・アレスね」

  赤髪の男は、ゆっくりと顔をあげ、銃を下ろす。まるで、やる気がないかのような、気怠げな様子を作る。

「アタシが女だから……だからって気を抜かないでよね?」

  かっこ悪く声は震えていた。

「……手加減でもして欲しいのか?」

  アインの紅い瞳の色が、かつてのルビーレッドの少女を思い出させる。瞳の中に何故か殺気は感じない。むしろ、助けを求めるかのような、そんな悲しい色をして見えた。

「いいえ、そんなはずないわ」
「なら、殺してほしいか?」
「……そんなつもりもない。あなたが死ぬのよ」
「…………そうか」

  男の指が腰に仕舞ったばかりの銀銃を素早く抜く、そこからの動作は速すぎて見えず、認識できた時には銃口はこちらを向いていた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...