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第9章 ヤカロザ決戦
4.紅い中
しおりを挟むスラム街を思わせる、かつての賑やかな面影を残す飲み屋の看板さえも、夜を照らしていたネオンの街灯を黒く淀ませていた。
排水口から立ち込める、蒸せるような熱気と、どこからともなく体内へ侵入しようとするガス漏れの臭い。
黒いコートの襟首を両手で逆立て、短いスカートの隙間から肌を刺す冷たい空気に肩を怒らせた。
「上手くやってよね」
「は、はい!」
パラはそれだけを言い残し、ブーツの底を鳴らしながらその場を去った。
その言葉が、ミアナの背中を押したのか…それとも、背中を睨んだのかは定かではないが、ミアナは固く拳を握りしめ、自分なりに気合いを入れた。
これが最終決戦なのだ。
そう心に言い聞かせ、空を見上げる。
空がおかしい。所々、空気が揺れて見えた。
目を凝らすと、緑と黄の短い光の筋同士がぶつかり合い、火花を散らしているところだった。かなりのスピードだ。あんなスピードが出せるのは…
慌てて通信機を耳に押し当てる。
「ヤドク!あれってブームと………」
『あぁ、ブームとフェルの戦闘が始まった。ミアナは援護に回ってくれ』
「そんな……ブームはまだ怪我してるわ!」
『それでもあいつは戦うんだ』
「……分かった。範囲は?」
『ヤカロザ門から、中央ゲートまでを閉じてくれれば、それでいい』
「了解」
通信機が切れるのを合図に、ミアナは勢いよく地面を蹴る。ポケットからストレージストーンを取り出し、突き当たりの壁にぶち当てた。ストーンが割れ、中から巨大な白い物体が姿を現す。ミアナはそれを確認することなく跨ると、手綱をきった。兎の巨体が上下を揺れるたびに、僅かな振動と、着地するたびに移り変わる景色を眺める。
「ラビット!中央ゲート前までアタシを運んで!」
空の上では相変わらず二つの光が交差しているところだった。
空に気を取られていると、ラビットの動きが少しだけぶれた。急いで正面に向き直ると、そこには多くのレブルブルー軍がこちらに向かって攻撃を仕掛けてくるところだった。白の団服を身に纏った男たちが、深く被った帽子で表情を隠し、銃を構えてくる。その上を、先ほどより少し高く飛び銃弾を回避する、横断歩道を右に回り、大きく飛び大型ビルの屋上へ移動した。
ギュゴゴゴゴゴゴ
ラビットの体が大きく揺れ、危うく振り落とされそうになる。体勢を整え、広々とした屋上を見渡す。古びた貯水タンクの上に、一人の男が立っていた。
赤いフードの下から覗く、口元はピクリとも動かず、男を不気味に見せるそのフードを、突風が勢いよく飛ばす。露わになったその赤毛に、ミアナは一瞬足をすくませたが、パラの言葉を思い出し、半ば無理矢理に体を起こす。
「レブルブルー…アイン・アレスね」
赤髪の男は、ゆっくりと顔をあげ、銃を下ろす。まるで、やる気がないかのような、気怠げな様子を作る。
「アタシが女だから……だからって気を抜かないでよね?」
かっこ悪く声は震えていた。
「……手加減でもして欲しいのか?」
アインの紅い瞳の色が、かつてのルビーレッドの少女を思い出させる。瞳の中に何故か殺気は感じない。むしろ、助けを求めるかのような、そんな悲しい色をして見えた。
「いいえ、そんなはずないわ」
「なら、殺してほしいか?」
「……そんなつもりもない。あなたが死ぬのよ」
「…………そうか」
男の指が腰に仕舞ったばかりの銀銃を素早く抜く、そこからの動作は速すぎて見えず、認識できた時には銃口はこちらを向いていた。
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