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第10章 ハリスナ殿
2.馬鹿
しおりを挟む「クリスタ殿…セカンドアース最北に位置し、過去に研究者たちにより、様々な研究が行われていた…らしいな」
「えー……そ、そうっすね」
「あ、ごめん。お前、アクチノイド人だったな」
コンクリートの板の上に乗せられ、フェルの速度に揺られること数分も経たずに、何百マイルも離れたハリスナ殿の姿が視界に広がった。
白い真っ平らな表面は、冷たい大理石でコーティングされ、長く続くその張りぼての塔の頂上は、白く氷り付いた靄の中に埋もれていた。
「ついたっすよぉ~」
コンクリートを軽やかにおろし、フェルは安定した笑みを浮かべる。ミアナを気遣い、ゆっくりと体を起こす。相変わらずミアナの反応はなかった。
「その子、どうしちゃったんすか?」
「……彼女の意思だから、ボクは何も言えない」
「ふ~ん、そうなんすか。で、アンタたちはどうするんすか?これから」
「……行くよ。ハリスナ殿にね」
ヤドクはミアナを背中に背負うと、団服から革ベルトを剥ぎ取り、ミアナと自身の体を結びつけた。パーカーにしまったストレージストーンの感触を指で感じ、そっと目を閉じる。
目の前に聳え立つ、巨大な洞穴の前に足を踏み出し、ぽっかりと空いたその穴の奥を覗き見る、暗い空間を真っ直ぐつなぐ道の先、小さな明かりが灯っていた。
氷点下で、吐く息が痺れた。背中のミアナに上着を掛け、一歩一歩を慎重に選んで進む。
「おいおい、死ぬ気かよ」
後ろからそんなフェルの声がした。
その言葉に力の差を実感し、悔しさに瞳孔が震えた。
「…あぁそうだよ。死ぬ気だ」
「その女も道連れってわけっすかぁ?」
「……そんなはず…」
「なら、やめといたほうがいいっすよ~少なくとも、アンタよりはあいつのほうが、大切なものってもんがよく分かってたっぽいっすから」
フェルの黄色い瞳が鋭い光を放ち、ヤドクの心の奥深くを睨めつけるかのようだった。
「確かに…お前と互角に戦えるようなブームよりか、ボクは遥かに弱いかもしれない。だけど、この先には家族がいるんだ」
「…また家族かよ……で?誰がいるわけ?」
「……ルーラーシステムの核…武器化を強いられた少女だよ」
フェルの表情が、一瞬だけ曇り、影を落とす。
「あぁ、あの子ね。大丈夫っすよ、あの子なら大切に保管されてるし…安心していいっすよ」
ふと考えるように顎に手を当て、フェルは小さく唸った。何を思ったのか、突然顔色を変えると、こちらの方へ駆け寄ってきた。
「おれも一緒に行くっすよぉ~」
「そんなことしたら、お前が裏切ったこと…」
「もうバレてるっすよ、だいたい、おれらレブルブルーはそういう組織っすから」
「どういう組織だよ」
「まぁまぁ、んじゃ、行きますよ?」
そう言って駆け出す後ろ姿が、あの馬鹿に似ていて、どこか切なくなった。
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