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第10章 ハリスナ殿
1.気分屋な凶器
しおりを挟む『かつて、地球という名の惑星があった。
海という名の湖は、魚と呼ばれる生き物で栄え、陸という名のその場所は、動物と呼ばれる生き物たちで栄えていた。
彼らは、そんな世界の中で、平等かつ弱肉強食的、矛盾世界を形成し、残酷で冷酷で安定した日々を長く生き抜いてきた。絶滅しては進化し、絶滅しては進化し。
そして…人間と呼ばれる支配者が現れた』
『奴らが憎い』
『殺せ』
『お前には力がある』
『利用してやる』
『ガキが!黙ってろ!』
「…黙るのはお前らだっつの」
高層ビルの屋上に、白髪の男と青髪の男がなにやら書類に目を落としているところだった。本当だったら、あいつらのところに吹っ飛んで行って、次の指令とやらを聞きに行かなくてはならないようだが…今の自分には、体力というより気力が少しばかり足りなかった。近くには、何本かビルが崩れ落ち、荒れた戦地を物語っていた。
数分前、戦闘中にも関わらず、年端の近い緑パーカーの少年がぼやいた言葉がある。
「オレには惚れた奴がいる」
「…ん!?」
「いや、お前のことじゃないけどね」
その後、見にきてみればこのざまだ。きっとあいつもこの崩れたビルの何処かに、その惚れた奴とやらと埋まっているのだろう。めでたいばかりだ。
両拳に装備された、銀属のナックルを一度壁に打ち付ける。力加減を知らないソレは、壁を粉々に破壊し、遠く離れた白髪共の耳にまでこだましてしまったようだ。白髪の男が、ふとこちらを振り返った。視線が交差し、馴れ馴れしい笑みが向けられる。白髪の男は、まるでそれが当たり前だと言うかのように指先だけでこちらへ来るように合図する。交感神経あたりだろうか、そこらへんが痛くなる。
仕方なく、その逆らえない手招きに銀拳を発動させる。加速を上げる前の一瞬だけの風の静寂が、逆らえない自分の弱さを嘲笑う。
「おい!お前、フェル・アフロディテだろ!」
そんな声が聞こえたのは、飛び立つほんの寸前であった。
汚れた団服の下に青パーカーを着込んだ、その男はまだ若い印象を持つ、両の力ある瞳でこちらを見ていた。その瞳に期待やら憧れやら、憎しみやら恐怖やらはなく、ただ単に、名を呼んだだけだと言っているようにも思えた。腕に抱えられた女は、随分と危険な状況なのか、意識はない。
「ブーム……」
「残念だったな、顔はブームでもボクはブームじゃない」
一瞬だけ、この状況が何なのか分からなくなる。目の前に現れた男はどこをどう見ようともあの蛇男のものである。
「……ブームはボクの兄弟だ」
何故か、ふと笑いがこみ上げた。息を殺して笑ってみる。止まらない。
「なんで笑う?」
「いやいやぁ~だって、あまりにも、そういうのって下らないなって思っちゃいまして」
「下らない?」
「ええ、下らない。家族ってのは実に下らないっすよ~」
そうか。あいつ、家族。いたんだ。
あいつの目の色は好きだった。澄んだ緑色には、孤独と、それに対する物足りなさと欲望とで汚れていて、どこか自分と似ていると思った。だけど、あいつと自分とでは越えられない、違うものが存在していたわけだ。あいつが何故、あんなに楽しそうなのか、それは無理矢理の理性なのだとばかり自己解決してみたが、そういうわけでもないようだ。
「何処いくつもりっすか?手負いじゃ遠くに行けないっすよ?」
「……そうだな」
「置いていったほうがいい」
「…止めないのか?」
「止める?何故?」
「……まぁいい。第一、彼女をここに置いて行くなんて選択肢はどこにもない」
「なら、おれがその選択肢作ろうか?」
「無理だな」
青パーカーの男の背後から、青色の巨大蛙が姿を現わす。一歩一歩を振動が伝い、身体中が震えた。
「彼女に手をかけるなんて…このボクが許さない」
その目は、ブームのものとは明らかに違った。
「やっぱおれと一緒じゃん」
「…なんだよ」
「いやいや、こっちの話っす。大丈夫っすよ、おれが二人まとめて連れて行ってあげっすから~」
「は?敵のお前がなんでそんなこと」
「敵に手を貸す奴なんてそうそういないっすよ~気分屋か、何か企んでない限りね。ま、おれは何かを企むような脳は兼ね備えてないから、消去法で前者かなぁ~」
「……正気か?」
「そう思う?」
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