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第10章 ハリスナ殿
4.受け取った銀色
しおりを挟む洞穴内に続く道は、湿気が多く、じめじめしていて、額に滲み出る汗を睨みながら、黙々と進んだ。それから数分ほど歩くと、突然開けた場所にでる。
「うわぁ…」
「ここが、クリスタ殿っすよ~その様子じゃ、初めてっすか?」
「うん、第一、ボクらはシーレッド入団前までアリダン国から一歩も出てなかったからね」
「へぇ~」
「こんなところまで来るなんて、予想もしてなかったよ」
白の単調で彩られた大理石の床からは、まるで氷の塊で作られた彫刻のような氷柱が上へ上へと伸び、どこからともなく、落ち着いた一定のペースで、冷たい水温が響いてくる。ドーム状の天井には、青やら赤やらの石が埋め込まれ、それぞれの色を輝かせていた。
壁には、細かい絵が彫り込まれ、5つほど、人間が通れる洞穴が続いていた。
フェルは慣れた足取りで、その洞穴の中の中央に配置されたほうへ足を進める。
「ここから先は危険っすよ、それでも行くんすか?」
フェルはそう真剣な表情を向けた。
ヤドクもそれ以上真剣な面持ちで、大きく一度頷いた。
再び、進行が始まり、しばらく無言が続く。
ふと足を止めたフェルの背にぶつかり、ヤドクは不満げにフェルを見上げた。
「なんだよ急に」
「いや、ちょっとこの先に行く前に約束しとこうかと思って」
「…約束?」
「おれはあんたの味方じゃない」
「……そんなこと知ってる」
「だから、いざとなっても、アンタじゃなく、アクにつく」
「…ご勝手に、その覚悟で来てるんだから」
そう吐き捨て、フェルに進むように顎でいうが、フェルはその先へ進もうとはしなかった。まるでヤドク達にこの先を隠すかのように、背を向ける。フェルの高い壁に行く手を塞がれ、怒鳴ってやろうかと息を吸う。
「やぁフェル!随分と手こずっていたようだね~」
突然、フェルの前方から何者かの声がした。
その口調に、なんとなく聞き覚えがあるが、それが一体誰なのかは、フェルの背中に塞がれ見れなかった。
「どうせ見てたんすよね?全部」
「え?君が蛇君と戦って、逃げられて、挙げ句の果てにその蛇君は、愛しの女の子と共に死んだのを一部始終見てたかって?」
死んだ?
頭の中を、何かが横切る。そうか…あいつは死んだのか。最後にブームから通信がきた、一言だけ『ばぁぁあか』とムカつくほど冷静な声がして、慌てて応答しようとしたが、通信はすぐに切れてしまった。
「……見てたんじゃないっすか」
「見てたよ~そりゃ、大好きなフェル君はいつでも見てるよ~」
ふとフェルの手がヤドクの服を後ろ手に掴んだ。何をする気かと疑うが、声の男に自分たちを売るわけではないことを悟り、素直にその手を握り返してみる。硬く冷たい物が手の中に滑り込んできた。落としそうになるのを堪え、その重みを受け取った。銀色に輝くその短剣を、ヤドクはしみじみと見つめた。
「使い方は簡単っすよ、それでその子を守ってあげる、ただそれだけっすから」
フェルの背から、聞こえるか聞こえないかぐらいの小声が聞こえ、ヤドクは無言でそれに返事をした。
「……で、その後ろの子達は何かな?フェル?」
フェルの銀ナックルが光り、それを合図にヤドクも地面を蹴る。
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