セカンドアース

三角 帝

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第10章 ハリスナ殿

7.黄の寝返り

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  あぁ、死ぬ。絶対、死ぬ。
  そんな弱音を内心で吐きながら、プロトを見据える。目尻が痙攣する、身体中が硬直する、プロトはそんな様子を見て、鼻で笑い、胸ポケットの羽ペンを取り出した。長く柔らかい羽は、プロトの指がポケットから完全にそれを取り出した瞬間に固く冷たい銀の鋭利さを描いた。長くプロトを囲うように緩やかなカーブの、銀の鎌を、プロトは何の躊躇もなくヤドクに突き出した。
  ヤドクは間一髪でその攻撃を回避し、キュインという機械音をあげ、右目に張り付いた液晶に視線を切り替える。目の前の青髪の一回目の攻撃から、全ての攻撃パターンを読み取る。
  右斜め下63度、左斜め下40度の連撃攻撃。
  プロトの斬りかかる動きより、寸秒はやい回避を繰り返す。フェルのようにまだ高速ではないので、回避するぐらいなら可能だ。
  一方、プロトは全ての攻撃を回避されているにも関わらず、余裕そうな表情を浮かべる。それを見る限り、この男が何かを秘めているようで、恐ろしくもあり、本当にこいつは生きているのかと疑いたくもなる。

「そうか、お前のルーラーは相手の動きを把握し、分析するのか。厄介だな」

  そんなことを言いながらも、ヤドクとは対照的なその整った息遣いに、ついつい表情を凍らせてしまう。

「だけど…甘い」
「……なッ」

  プロトの鎌が、一瞬にしてレーダーから外れ、新たな計算式が頭の中を回転した。焦る気持ちと異なり、数字たちはのうのうと新しい文字を刻み込む、気づいた時には銀色の鋭利な輝きは、ヤドクの腹部めがけて接近していた。目分でも分かる至近距離に、冷たい銀色を感じた。
  これで終わりか。
  最後の瞬間がどういうものなのか、ブームはボクより先に味わい、ボクより先に本当に大切なものを知った。
  ふと背中のミアナに思考を移す。
  もし、ボクが死んだら、彼女はどうなるのだろう。

『見捨てるの?』

  そんな声が脳裏で震えた。誰の声だが覚えはないが、どこかで聞いた親しい声に似ている。
  ヤドクの思考など、どうでもよく、危機迫る状況は変わらない、その言葉がどんな意味を持ち、どんな合図を出しているのかなんて、そんなことももう遅い。ボクは死ぬ。

  銀の鎌が宙を切り裂き、その音が思考停止の刻限を知らせる。
  
  体が切り裂かれたのか、強い空気の圧力のようなものに体ごと吹き飛ばされる。とっさにミアナを庇い、ミアナを固く抱きしめたまま数メートルほど床を擦る。ようやくそれが収まり、次に自分の体が無傷であることに気づく。何度か体を触るが、どこにもそれらしき傷跡はない。
  プロトの様子が気になり顔をあげる。
  靄がかかったような、そんな空間が視線の先を邪魔している、その靄が徐々に姿を変え、現れた黄色い人影に、ヤドクは思わず安堵のため息をつく。

「…これはこれは面白い展開だね」

  アクの興奮した声が、プロトの眼光を大きく揺るがせる。

「……久しぶりだねぇ!フェル・アフロディテ君、奴らに寝返ったってわけか?」

  フェルはその口元に小さな笑みと、憎悪と、ほんの少しの余裕を見せる。

「さぁ、どうっすかね~」
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