セカンドアース

第10章 ハリスナ殿

9.黄光

「斜め43度！前方！」
「うわぁ～やっぱ凄いっすねぇ～その即読み」

  フェルは、息もつけない戦いに、危機迫る汗を額に浮かべ、できるだけ平気な顔を貫く。もちろん、目の前でピクリとも動かない表情をもった青髪の男にはフェルの心情など、とうの昔に読まれてしまっていることだろう。

「さすが幹部さん。おれらとは格が違うってわけか？」

  フェルの攻撃が、プロトの背中をついた、プロトの視線が背後に180度移り変わるのを、上下でゆっくりと観察する。移りゆく足の動きと視線と思考の後、プロトの正面が自分の用意していた向きとは異なることに焦る。

「俺にその手は通じない」

  炸裂した銀の鎌を、直接受け、体ごと後方に吹き飛ばされる。壁に激突し、体を支えることを忘れた足を睨みつける。腕や足を切り刻んだようなその激痛にフェルは拳を握ることさえ出来なくなっていた。
  初めて感じる…わけではないが、その痛みはとても緩やかで冷たいものだった。胸が張り裂けそうで、それがこの痛みによるものではなく、精神的な状況であることを認識する。全身の交感神経がビクビクと痙攣を起こしているようにさえ感じた。

「…チッ……」

  悔しいふりをし、徐々に距離を詰めてくる青髪に手を伸ばした。柔く握った拳に銀の鎌が食い込んだ。ふと視線をあげる。純白の髪を何処からか吹き込む風に靡かせ、こちらを見下ろす男の姿を見る。
  拳に取り憑いた枷を、銀の鎌が砕いていく。
  これで、全てが終われる。

「フェル！諦めるなよ！お前は…」
「…おれはあいつみたいな馬鹿にはなれないっすよ……こいつらには、勝てない……」

  ヤドクの青い眼光が、怯えるように震える。

「諦めたほうが…あんたらのためにも良いっすよ」

  おれはここで殺される。ブームの片割れも、その女も、全員殺される。そして、この世界はルーラーの格の武器化によってアクチノイドのものとなり、セカンドアースへの復讐劇は、それで終わる。

「分かっているのなら、何故俺たちに逆らった？」
「……自分を……おれの力を確かめたかったからだ……」
「…………そうか…愚かだな、フェル」

  銀の鎌が腹を抉った。
  切断される感覚を感じ、体が痺れる。信じられない場所にヒヤリとした物理的な寒さを感じ、遠くで誰かの叫び声が聞こえた。