124 / 185
最終章 セカンドアース
5.仲間
しおりを挟むフェルの右足がプロトの首元をすくった。プロトの体制が一瞬だけよろけ、その隙をついて再びフェルの左足がはためく。続けざまの攻撃にプロトは一度後方に大きく飛び退くものの、フェルのほうが一足早く、その後方へと回っていた。振りかざされた鎌をフェルはナックルで押さえ込み、そのまま宙に高く飛んだ。
「なんで…なんで殺さなかった」
冷酷な表情に、先ほどまでなかった色を浮かべたプロトに、フェルは鎌を抑え込み尋ねる。その段階も一瞬で切り替えられ、フェルとプロトはまた場面を移す。宙に放り出されたフェルは、損傷した右足を庇い、左足で地を蹴る。
フェルの駆け出しの軌道が、筋の濃ゆい光となって地面の大理石を削った。プロトは鎌の先端でフェルの仕掛けた圧力をなんなく払うと、動くことなくフェルの攻撃を待った。
「プロト……お前は銀鎌を使わなかった…なんで、トゥルージャッチを使った!それじゃ、普通の人間は斬れない!」
「……いいや、お前は確かに斬った…」
「…どういうことっすか……おれがトゥルージャッチで斬れるはず…」
「お前は人を殺しすぎた。真実に反する行いをしてきた…斬れないはずがないんだ」
何処からか込み上げる、不可解な抵抗感と、逆らえない言葉の枷…フェルは大きく足を踏み出し、プロトの表情に噛み付いた。
プロトはそれを交わし、鎌を大きく振りかざす。一瞬できたプロトの胸部部分の隙に、フェルはその拳を深く抉りこませる。
プロトの口から溢れ出た赤いしぶきに、フェルは更に拳を食い込ませる。深く刺さったそのナックルを振りほどき、床に突っ伏すプロトを見下ろした。
「……なんだよ…今、手加減したっすよね…プロト………あんたはおれを…おれらを……一体何を企んでるんすか!」
プロトの横顔が、少しずつ白くなって見えた。血色が悪く、青白い。傷ついたそのメガネのフレームをプロトは一度ピクリと動かした。その指が震えていることに、さらなる憎悪が動き出す。
「馬鹿にしてるのか?」
そんな声が聞こえたのは、床に転がるプロトではなく、真後ろ…
振り返った頃には遅く、プロトの鎌が頭上から振り降りてくる。一瞬だけ見えた、眼鏡の奥の瞳には、情は無く。あるのはただの理性のみ…
「……せっかく逃げるチャンスをお前に与えてやったというのに…」
握ろうとした拳にも、そんな力など残っていない。向こうで青蛙が必死にこちらに手を伸ばしている。あの手に一度、仲間と言われた。それだけであの男と同じになれたような気がして、嬉しかった……
ゆっくりと目を瞑る。視界が暗くなる。
ババンッッ!!
懐かしい音だ。銃が鳴く声…それにしても、今日も派手だな。でも、あの人の放つ音はそんじゃそこらの銃声と違って、もっと特別はものがあった…
勢いよく目を開く。
目の前で、銃声を背景に、潤紅のマントを羽織った、燃えるような赤髪が揺れていた。
レザーグローブの上から握る、銀色の小銃。
「……アイン………先輩……」
「遅くなった……フェル…」
拳が電気を帯びたように痙攣する。
安心したわけではない。
ただ……ただ嬉しかった…………
そうか……最初から、おれにも仲間がいたのか……
その時だったー
ヤドクの後ろの壁がびりびりと亀裂を走らせる。フェルは近くの壁まで走り抜け、壁に火花を散らしながらヤドクに体当たりする。ヤドクの体が弾き飛ばされた瞬間、その壁の向こうから大量の空気が吐き出され、それと同時に大粒の瓦礫が降ってきた。
現れた巨大な黒い影を見上げ、それにまたがる少年の黒髪に目を凝らす。
「それと、ちょっとした助っ人も連れてきた…」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる