157 / 185
ブーム君とヤドク君の秘密
1.双子の逃亡
しおりを挟む薄汚れたボロい二階建てのアパート。造りはシンプルで、白の塗料は剥がれ、黒い屋根には鳥の糞が点々とこびりついている。辺りは人っ子ひとりおらずしんと静まり返っていた。
そんなアパートの一階にひときわ暗い扉がある。サイズの余った緑のパーカーから小さく覗いた指先ですすけたズボンのポケットを探る。
冷たい無機質な鍵が人差し指に引っかかり、そのまま引き上げ慣れた手つきで扉をこじ開けた。
昼間の空気を一切感じさせない室内は、狭くて暗くて、タバコ臭い。テーブルの上には缶ビールの飲みかけが転がり、そんな我が家で最も騒がしいのは、カーテンから差し込むわずかな光に照らされ、未だガヤガヤと鳴るテレビだけ。
悔しいが、それ以外はいたって静かだ。
そんなテレビの隅っこで、丸くなった背中が見えた。色違いの青のパーカーは、二人の友情や家族の証…
「ま~た泣いてんのかヤドク?」
「…う、うぅ……だって…母さんが……」
「母さん?」
慌てて風呂場の扉を開ける。
すっからかんとしたシャワールームは静かで人気はない。備え付けられた小さな鏡の前に高そうな化粧品たちがバラバラと散乱しているだけだ。
「……母さん…帰ってたんだ……」
テーブルの上の缶ビールに再び目を移す。飲み口に赤い口紅がべっとりと付いているのが一つと、何もついていないのがもう二つ……
「…………あいつも来てたの?」
「…うん……来てた」
そう言ってひときわ大きくしゃくりあげたヤドクにどうしようもなくなり、軽い助走をつけ飛びかかる。
ヤドクの柔らかい髪をわしゃわしゃと撫でてやると、ぎゅっと強く、優しく抱きしめてやった。
「……今度は何された?」
「…う、ヒッうぅ……グスン…うう」
「おいヤドク、言わないと分かんないだろ?」
「……た、た、タバコ…グスン、ヒック…うぅ…熱い……」
「タバコ?タバコがどうした?」
ヤドクはブームを体から離すと青パーカーのチャックをゆっくりと下げ、その背中を見せた。黒い燃えかすと赤い傷が数カ所浮き出て、ミミズ割れのようにして腫れ上がっていた。
「…あいつッ……」
「…で、でも…大丈夫だよ……ヒック、もうだいぶ……う…よくなった…グスッ…から」
「そんなに泣きべそかきやがって何が大丈夫だよ、あいつ…オレがいないとすぐヤドクに…」
「ボ、ボクが弱いから……ヒック…」
「……あの男…最近頻繁に来るようになったな…」
「…………結婚…する……のか…ヒッ…な?」
「あんな奴が親父になるなんてオレは絶対認めない!っつーわけでヤドク!逃げるぞ!こんな所とっとと逃げようぜ!」
「で、でも…」
「だーいじょうぶ!オレに任せろ!」
そうと決まれば話は早い。
随分前から使わなくなった大きめなリュックをカビの生えた戸棚から取り出し、中にどんどん衣類を詰めていく。
冷蔵庫の中にある物を全て詰め込むとそれをヤドクにもかるわせる。
「え、ほ、本当に行くの?」
「あぁ!早くしねぇと夜になるだろ?そしたらあいつら戻ってくるかもしれないしさ!出発は早いが勝ち!」
「…ボク、不安だなぁ」
「ビビるなよヤドク!お前にはオレがいる!」
0
あなたにおすすめの小説
妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる