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四
もう一人の契約者と倶楽部のルール
しおりを挟むチリリリ♪
龍也のポケットから、着信音が鳴った。
「お、次郎長」
龍也がスマホを取り出し、しゃべり出した。
「ちょい、待ってな。新入りさんが来たんだ。うん、男……いや、中三。ああ、後でスカイプ繋ぐ?」
しゃべっている間も、せわしなくデスクの引き出しをがさがさと、引っ掻き回す。
「次郎長さん?」
「ん? ああ、清水って奴だよ。俺たちは『次郎長』って呼んでいるんだが、ここのメンバーで、タツのゲーム友達兼、仕事仲間さ」
「仕事……ですか」
「そ。もともと、ここはタツの仕事場さ。あいつ、あれでもここを拠点に、便利屋まがいの仕事をしているのさ。ミサとやっていたのも、その一つさ」
一日限りのお友達ごっこ――『放課後お友達倶楽部』のことだ。
「じゃあ、このお友達俱楽部も?」
竜平はRa・LaLaを片手にそっけなく答える。
「いや、ここには奴が吟味して信用した奴しか入れん」
「はははは、相変わらずだな。じゃあ、四時に戦場で」龍也が笑いながらイヤホンを外した。
「あの……、僕、お邪魔だった?」
電話の会話が途切れたことに、尚は遠慮を感じた。
「いや、いいんだ。次郎長は、ナオ以上に照れ屋だからさ。今日は部屋も髪もぐしゃっていて、会えないってよ」
「会わなくても、音声通話だけでもいいじゃないか」
竜平が立ち上がり雑誌を置くと、オフィス机にあるパソコンの電源を入れた。
ソファーの奥には、オフィス机が向かい合わせに二台。一台にはパソコン、一台には大きなモニターとゲーム機が載っていた。
尚は改めて部屋の中を見渡した。
壁際には壁面収納。
無造作に置かれた様々な物。ノートパソコンからゲームソフト、半貴石の原石にアジアンテイストな置物、化粧品は未沙の私物だろうか。
「次郎長は、極度な人見知りでさ。ここにも滅多に顔を見せねえんだ。ほとんどメッセージか音声通話かオンラインゲームのマイク、機嫌が良けりゃ、たまあにビデオ通話で顔を見せてくれる。会費を払わねえ月もある。そんな時は、奴から連絡があるのを待つんだよ」
竜平と交代するように、龍也が尚の前に座った。
「言ったろ、みんな不器用で変わった奴ばかりだって。だからほら、ここのルール。迷った時は、これを見てくれよ」
さっきまで、机の中を探していたのは、この巻紙だったのだ。
「そんなルール、誰も覚えていないがな」
竜平が茶々を入れる。
「うっさい」
式辞用の折り畳み巻紙は、ご丁寧に表紙に包まれていた。
龍也がわざと大げさな仕草で、表紙を開け中身を取り出した。
「わ、すごい達筆! 誰が?」
開くと、見事な草書で書かれた文字が。
「俺様だよ」
龍也が自慢げに親指で己の胸を指した。
「タツは馬鹿だが、文字だけはうまいのさ。あれでも、代筆業もやっているらしいぞ。笑うよな」
「リュウ、いちいちうるさい」
尚は中身を丁寧に広げ、最初の文を読もうとした。
「……達筆すぎて、何書いているのか読めない」
「ええ~」
龍也ががっかりして、自分で読み始めた。
「倶楽部法度」
「はっと?」
「そ、新選組の局中法度書ってのを真似したんだ」
「ふ~ん」
新選組は、歴史の授業では出てこない。こんな人たちがいたよ、な程度で通り過ぎたから、尚にはその法度書ってのもわからない。
「一、メンバー間での金銭の貸し借り禁止
一、メンバー内での恋愛は禁止
一、メンバー外への鍵の譲渡は禁止
一、メンバー外へ、メンバーの秘密を漏らすは禁止
一、個人情報はメンバー外に漏らしてはならない
以上。」
常識の範疇な内容だ。
尚はふんふんと納得しながら聞いていたが、ひとつ疑問が湧いた。
「あの、メンバー間の恋愛って……ミサさんを巡って?」
どれだけのメンバーがいるのか知れないが、今のところ女は、未沙だけの様だ。
「他にも女が来るかもしれねえしよ、それにナオだって危険じゃん」
――男か女かあいまいだから?
尚の表情が陰る前に、龍也の首に竜平の腕が巻き付いた。
「うえっ」
「馬鹿は言葉も選べんのか?」
竜平の態度は冷たい。
「お、おまっ、だってよ、げほ、ナオが男だったら、余計やばっ」
首を絞める竜平の顔はまるでポーカーフェイスだが、腕には益々力が入ったのか、龍也が白目を剥いた。
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