駅前お友達倶楽部―月々3000円の友情ごっこ

森野あとり

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もう一人の契約者と倶楽部のルール

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 チリリリ♪

 龍也のポケットから、着信音が鳴った。

「お、次郎長」

 龍也がスマホを取り出し、しゃべり出した。

「ちょい、待ってな。新入りさんが来たんだ。うん、男……いや、中三。ああ、後でスカイプ繋ぐ?」

 しゃべっている間も、せわしなくデスクの引き出しをがさがさと、引っ掻き回す。

「次郎長さん?」
「ん? ああ、清水って奴だよ。俺たちは『次郎長』って呼んでいるんだが、ここのメンバーで、タツのゲーム友達兼、仕事仲間さ」
「仕事……ですか」
「そ。もともと、ここはタツの仕事場さ。あいつ、あれでもここを拠点に、便利屋まがいの仕事をしているのさ。ミサとやっていたのも、その一つさ」

 一日限りのお友達ごっこ――『放課後お友達倶楽部』のことだ。

「じゃあ、このお友達俱楽部も?」

 竜平はRa・LaLaを片手にそっけなく答える。

「いや、ここには奴が吟味して信用した奴しか入れん」 

「はははは、相変わらずだな。じゃあ、四時に戦場で」龍也が笑いながらイヤホンを外した。

「あの……、僕、お邪魔だった?」

 電話の会話が途切れたことに、尚は遠慮を感じた。

「いや、いいんだ。次郎長は、ナオ以上に照れ屋だからさ。今日は部屋も髪もぐしゃっていて、会えないってよ」
「会わなくても、音声通話だけでもいいじゃないか」

 竜平が立ち上がり雑誌を置くと、オフィス机にあるパソコンの電源を入れた。
 ソファーの奥には、オフィス机が向かい合わせに二台。一台にはパソコン、一台には大きなモニターとゲーム機が載っていた。

 尚は改めて部屋の中を見渡した。

 壁際には壁面収納。
 無造作に置かれた様々な物。ノートパソコンからゲームソフト、半貴石の原石にアジアンテイストな置物、化粧品は未沙の私物だろうか。

「次郎長は、極度な人見知りでさ。ここにも滅多に顔を見せねえんだ。ほとんどメッセージか音声通話かオンラインゲームのマイク、機嫌が良けりゃ、たまあにビデオ通話で顔を見せてくれる。会費を払わねえ月もある。そんな時は、奴から連絡があるのを待つんだよ」

 竜平と交代するように、龍也が尚の前に座った。

「言ったろ、みんな不器用で変わった奴ばかりだって。だからほら、ここのルール。迷った時は、これを見てくれよ」

 さっきまで、机の中を探していたのは、この巻紙だったのだ。

「そんなルール、誰も覚えていないがな」

 竜平が茶々を入れる。

「うっさい」

 式辞用の折り畳み巻紙は、ご丁寧に表紙に包まれていた。
 龍也がわざと大げさな仕草で、表紙を開け中身を取り出した。

「わ、すごい達筆! 誰が?」

 開くと、見事な草書で書かれた文字が。

「俺様だよ」

 龍也が自慢げに親指で己の胸を指した。

「タツは馬鹿だが、文字だけはうまいのさ。あれでも、代筆業もやっているらしいぞ。笑うよな」
「リュウ、いちいちうるさい」

 尚は中身を丁寧に広げ、最初の文を読もうとした。

「……達筆すぎて、何書いているのか読めない」
「ええ~」

 龍也ががっかりして、自分で読み始めた。

「倶楽部法度」
「はっと?」
「そ、新選組の局中法度書ってのを真似したんだ」
「ふ~ん」

 新選組は、歴史の授業では出てこない。こんな人たちがいたよ、な程度で通り過ぎたから、尚にはその法度書ってのもわからない。

「一、メンバー間での金銭の貸し借り禁止
 一、メンバー内での恋愛は禁止
 一、メンバー外への鍵の譲渡は禁止
 一、メンバー外へ、メンバーの秘密を漏らすは禁止
 一、個人情報はメンバー外に漏らしてはならない
 以上。」

 常識の範疇な内容だ。
 尚はふんふんと納得しながら聞いていたが、ひとつ疑問が湧いた。

「あの、メンバー間の恋愛って……ミサさんを巡って?」

 どれだけのメンバーがいるのか知れないが、今のところ女は、未沙だけの様だ。

「他にも女が来るかもしれねえしよ、それにナオだって危険じゃん」

 ――男か女かあいまいだから?

 尚の表情が陰る前に、龍也の首に竜平の腕が巻き付いた。

「うえっ」
「馬鹿は言葉も選べんのか?」

 竜平の態度は冷たい。

「お、おまっ、だってよ、げほ、ナオが男だったら、余計やばっ」

 首を絞める竜平の顔はまるでポーカーフェイスだが、腕には益々力が入ったのか、龍也が白目を剥いた。
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