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七
リュウの推理
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松林が動いたということは、ただ単に親探しの名目ではなさそうだと直感した。
「刑事さんは、他にも手がかりを隠し持っていそうだって、僕を疑ったんだ」
「ナオを? なんでいきなり。僕らがこうして動いていることは、奴らに知られていないはずだ」
竜平が思い切り怪訝そうな顔をする。
「あとは、『新栄学園の生徒か』って確認されて……さっきタツヤさんが言った〈ヒロト〉を知っているかって聞かれた。サガラヒロト」
全員が息を呑んだ。
「……は、母親探しとは別件で、すでにあいつらが動いていたって、ことだね。た、たまたま、僕ら、それに、係わってしまったんだ」
次郎長が小さな声で、ぼそぼそと言った。
だか、龍也には尚がその〈ヒロト〉との関係を疑われたことに、合点がいかないようだ。
「だからって、なんで尚が事件の関係者的な質問を受けるんだよ。その、ヒロトって奴との接点がねえじゃんか」
「いや、あるね」
全員が竜平の方を見た。
「相良比呂斗は、新栄学園の生徒だからだ。いや、だったと言った方がいいかな。ほとんど不登校に近い出席率で、昨年既に退学している。僕より一学年下だ」
言いながら、水色の付箋に〈相良比呂斗〉と書いて、机に貼った。
「つまり、警察が探しているのは、そのヒロトって奴だったのか?」
「かも知れんな。たまたま、子どもたちの母親が、相良の女だったってことさ」
竜平が目を瞑った。何かを考えている様子だ。
「じゃあ、その相良って子に直接聞いてみれば?」
無邪気に言った未沙に、次郎長が反論する。
「ばば、バッカじゃないの! 警察が探してるって段階で、行方知れずって可能性が高いし、どんな犯罪かもわからないのに、ききき、危険すぎじゃん」
「バカはないでしょう、ねえ、リュウ」
「ちょっと黙ってくれないか」
目を閉じたまま、竜平が未沙を遮る。
「ふうぅ、腹が減ったな。タツ、昼飯を調達してくれないか」
未沙を遮って言ったセリフがこれだった。
「もう! タツ、一緒にマック行こう」
発言を遮られたことで機嫌を損ねた未沙が立ち上がり、龍也を買い出しに誘った。
「あ、ああ。適当に買って来るぞ。ナオは好き嫌いないよな?」
「うん!」
とっくに昼を回って、尚も腹がすいてきたところだったのだ。
未沙と龍也が部屋を出てすぐあと、竜平が尚に話しかけた。
「ナオは相良を知らなかったのか?」
「うん。僕、学校には友達がいないから。そう答えた」
〈相良、警察捜索〉〈相良とななこの関係〉〈松林刑事〉〈工藤〉〈ナオ〉次々と次郎長が水色の付箋を増やし、竜平がそれを貼りつけていく。
この二人の中でも、いくつかのピースが形を成したようだった。
それにしても――と尚は思う。次郎長は尚に『リュウは嫌いだ。多分リュウも俺が嫌いだ』と言っていた。
――その割には息が合ってるよね。この二人……。
「ナオ、どうした?」
ぼんやりしている尚の肩を、竜平がぽんっと叩いた。
「う、ううん。リュウヘイさんと次郎長さん、息が合ってるなあって」
「まあな。思考の道順が似ているのだろ」
にこりともせず答えた。そして、推理を披露した。
「まず、〈ななこ〉はこの町の住民には違いないだろう。自転車を移動手段にしているくらいだ。僕は子供らを見ていないが、人懐っこいってことは大人を恐れていないってことじゃないかな」
「うん。しんちゃんはどちらかって言うと気ままでわがままで。あ、でもちゃんと言うことは聞くよ。いい子だったもん」
「いい子って言い方は好きじゃない」次郎長がぽそりとこぼす。
それには触れず、竜平が続けた。
「大抵の虐待児童は極端に大人を信用していないか、大人の顔色を見るものだ。そうやって気ままに振る舞えるってことは、大人に対しての警戒心が薄い証拠だ。案外、彼らは可愛がられていたのかもしれんな」
次郎長がスニーカーを脱いで、ソファーに脚を投げ出した。
「で?」
「で、監視カメラの画像、このあたりの住人だとすれば、ちょっとよく調べればすぐに子供の身元は判明しそうだと思わないか。なのにすぐに判明しない身元。おかしいだろ?」
「べーつに~」
次郎長が間延びした返事をする。
「か、彼女きっと、住民票をこちらに移してないんだよ。下手したら、子供は認知されてなくってさ、あ、赤ん坊に至ってはしゅ、出生届も出されてないかもだね」
「はは、いいとこ突くじゃないか」
尚にとって、二人の会話は衝撃的なものだった。だが、その後竜平が披露した推理は、尚が描いた絵と一致したのだ。
「僕が想像するに、子供たちは未婚の母的ないわゆる私生児。下手したら出生届のされていない戸籍の無い子供。だが虐待に至っていないと言うことは、男が傍にいて、糧があった。その男……つまり相良が犯罪に手を染めていた。薬物とか詐欺とか。で、その瀉血オフ会は隠れ蓑さ。彼女は相良から逃げるために昨日の行動に及んだ……って筋書きはどうだい?」
名探偵さながら、竜平が眼鏡のはじっこをぴっと上げて見せた。
「うーーん、つ、突っ込みどころは色々あるけど、そんなところかな。お、俺は瀉血パーティーも男の息がかかっている、と思うが」
尚は黙って自分の想像を膨らます。次郎長と竜平が何かを口論していたけれど、今は窓の外の雑音と入り混じって、耳の中まで届かなかった。
「刑事さんは、他にも手がかりを隠し持っていそうだって、僕を疑ったんだ」
「ナオを? なんでいきなり。僕らがこうして動いていることは、奴らに知られていないはずだ」
竜平が思い切り怪訝そうな顔をする。
「あとは、『新栄学園の生徒か』って確認されて……さっきタツヤさんが言った〈ヒロト〉を知っているかって聞かれた。サガラヒロト」
全員が息を呑んだ。
「……は、母親探しとは別件で、すでにあいつらが動いていたって、ことだね。た、たまたま、僕ら、それに、係わってしまったんだ」
次郎長が小さな声で、ぼそぼそと言った。
だか、龍也には尚がその〈ヒロト〉との関係を疑われたことに、合点がいかないようだ。
「だからって、なんで尚が事件の関係者的な質問を受けるんだよ。その、ヒロトって奴との接点がねえじゃんか」
「いや、あるね」
全員が竜平の方を見た。
「相良比呂斗は、新栄学園の生徒だからだ。いや、だったと言った方がいいかな。ほとんど不登校に近い出席率で、昨年既に退学している。僕より一学年下だ」
言いながら、水色の付箋に〈相良比呂斗〉と書いて、机に貼った。
「つまり、警察が探しているのは、そのヒロトって奴だったのか?」
「かも知れんな。たまたま、子どもたちの母親が、相良の女だったってことさ」
竜平が目を瞑った。何かを考えている様子だ。
「じゃあ、その相良って子に直接聞いてみれば?」
無邪気に言った未沙に、次郎長が反論する。
「ばば、バッカじゃないの! 警察が探してるって段階で、行方知れずって可能性が高いし、どんな犯罪かもわからないのに、ききき、危険すぎじゃん」
「バカはないでしょう、ねえ、リュウ」
「ちょっと黙ってくれないか」
目を閉じたまま、竜平が未沙を遮る。
「ふうぅ、腹が減ったな。タツ、昼飯を調達してくれないか」
未沙を遮って言ったセリフがこれだった。
「もう! タツ、一緒にマック行こう」
発言を遮られたことで機嫌を損ねた未沙が立ち上がり、龍也を買い出しに誘った。
「あ、ああ。適当に買って来るぞ。ナオは好き嫌いないよな?」
「うん!」
とっくに昼を回って、尚も腹がすいてきたところだったのだ。
未沙と龍也が部屋を出てすぐあと、竜平が尚に話しかけた。
「ナオは相良を知らなかったのか?」
「うん。僕、学校には友達がいないから。そう答えた」
〈相良、警察捜索〉〈相良とななこの関係〉〈松林刑事〉〈工藤〉〈ナオ〉次々と次郎長が水色の付箋を増やし、竜平がそれを貼りつけていく。
この二人の中でも、いくつかのピースが形を成したようだった。
それにしても――と尚は思う。次郎長は尚に『リュウは嫌いだ。多分リュウも俺が嫌いだ』と言っていた。
――その割には息が合ってるよね。この二人……。
「ナオ、どうした?」
ぼんやりしている尚の肩を、竜平がぽんっと叩いた。
「う、ううん。リュウヘイさんと次郎長さん、息が合ってるなあって」
「まあな。思考の道順が似ているのだろ」
にこりともせず答えた。そして、推理を披露した。
「まず、〈ななこ〉はこの町の住民には違いないだろう。自転車を移動手段にしているくらいだ。僕は子供らを見ていないが、人懐っこいってことは大人を恐れていないってことじゃないかな」
「うん。しんちゃんはどちらかって言うと気ままでわがままで。あ、でもちゃんと言うことは聞くよ。いい子だったもん」
「いい子って言い方は好きじゃない」次郎長がぽそりとこぼす。
それには触れず、竜平が続けた。
「大抵の虐待児童は極端に大人を信用していないか、大人の顔色を見るものだ。そうやって気ままに振る舞えるってことは、大人に対しての警戒心が薄い証拠だ。案外、彼らは可愛がられていたのかもしれんな」
次郎長がスニーカーを脱いで、ソファーに脚を投げ出した。
「で?」
「で、監視カメラの画像、このあたりの住人だとすれば、ちょっとよく調べればすぐに子供の身元は判明しそうだと思わないか。なのにすぐに判明しない身元。おかしいだろ?」
「べーつに~」
次郎長が間延びした返事をする。
「か、彼女きっと、住民票をこちらに移してないんだよ。下手したら、子供は認知されてなくってさ、あ、赤ん坊に至ってはしゅ、出生届も出されてないかもだね」
「はは、いいとこ突くじゃないか」
尚にとって、二人の会話は衝撃的なものだった。だが、その後竜平が披露した推理は、尚が描いた絵と一致したのだ。
「僕が想像するに、子供たちは未婚の母的ないわゆる私生児。下手したら出生届のされていない戸籍の無い子供。だが虐待に至っていないと言うことは、男が傍にいて、糧があった。その男……つまり相良が犯罪に手を染めていた。薬物とか詐欺とか。で、その瀉血オフ会は隠れ蓑さ。彼女は相良から逃げるために昨日の行動に及んだ……って筋書きはどうだい?」
名探偵さながら、竜平が眼鏡のはじっこをぴっと上げて見せた。
「うーーん、つ、突っ込みどころは色々あるけど、そんなところかな。お、俺は瀉血パーティーも男の息がかかっている、と思うが」
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初回公開日時 2019.01.25 22:29
初回完結日時 2019.08.16 21:21
再連載 2024.6.26~2024.7.31 完結
❦イラストは有償画像になります。
2024.7 加筆修正(eb)したものを再掲載
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