満月

二見

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上弦の月

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 窓の外で鳴いている鳥の鳴き声で目を覚ました圭一は、まず最初に時間を確認した。午前七時。もう朝食が始まる時間だ。急いで顔を洗い、服を着替えて食堂へと向かった。
 朝食を終えると、圭一は本日の予定を立てることにした。実を言うと、いつこのペンションを出るのかは決めていなかった。なので、持ち金が続く限りはいることができるのだが、そこまで長くいるつもりもなかった。とはいっても、次に行きたい場所も特にはない。今日もこのペンションに泊まるのか、または別の場所へ旅立つのか、どちらにするのか決めかねていた。

「……決めた。とりあえず今日はここに泊まろう」

 そう決意した理由は、満月の存在だった。今日も真夜中に湖に行けば、彼女に会えるかもしれないと思ったからだ。圭一は自分でも気づかないうちに、彼女に惹かれていた。
 圭一はフロントで手続きを行った後、夜になるまで適当に時間を潰す場所を探した。携帯の地図アプリを起動し、この周辺に何があるのか調べ始めた。いくつか暇つぶしの候補を見つけたので、本日はそこを回ることにした。

「とりあえず、これで全て回ったかな」

 気になる場所を全て回っていたら、空はすっかり夕暮れとなっていた。圭一は、一旦ペンションに戻って、ゆっくり休んでから湖に向かう予定をたてた。
 ペンションに戻った圭一は、昨日と同じように夕食をとり、風呂に入って少し仮眠した。
目を覚ますと、ちょうどいい時間になっていた。午後十一時。昨日と同じ時間だ。圭一は上着を羽織り、窓から木をつたって湖へと向かった。
 湖に着くと、そこには昨日と同じ場所に満月の姿があった。

「あ、あの、こんばんは」

 後ろからの圭一の声で、満月はこちらへ振り返った。

「あら、秋月さん。今日も来たんですね」
「ええ。やっぱ何度見てもこの湖に浮かぶ月は素晴らしいな」

 本当は満月が目当てできたのだが、恥ずかしくてそれを言う勇気はなかった。

「今日の月もいいですが、満月になると更に良さが増すんですよ」
「満月、ですか」
「ええ、もし時間があるのでしたら、是非見てはいかがでしょうか」

 満月のその言葉を聞いた圭一は、

「そこまで言うのでしたら、是非見てみたいですね」

 と答える。

「それはよかった。満月は、今日からちょうど一週間です。秋月さんは運がいいですね。15日に満月を見ることができるなんて」
「それって、運がいいことなんですか?」
「ええ。とっても運がいいですよ」

 満月がにこりと微笑む。
 その笑顔を見た圭一は、照れくさくなって目を逸らした。

「でも、一週間後までここにいるんですか? お仕事とか、あるんでしょう」

 満月は当然の疑問を投げかける。

「そのことなら、大丈夫ですよ。僕はもう仕事は止めましたから」

 正確にはクビになったので止めさせられた、なのだが、そこは見栄を張った。

「まあ、そうなんですか。それなら、時間がありますね」
「ええ。ところで、その満月の夜には、満月さんもここに来るんですか?」
「もちろん。私はそのために来たといっても過言ではありませんから。ただ、目的はもう一つありますけれど」
「もうひとつ?」
「それは、まだ秘密です」

 満月は唇に人差し指をあてた。

「そうですか。それにしても、満月の日が楽しみになってきました」
「私もです。でも、今日の月も素晴らしいですよ。何ていったって、上弦の月ですから」
「上弦の月?」

 学校で習ったことがある気がするが、全く覚えていなかった。

「新月から満月に至る中間の月のことですよ。新月は1日の月と言われていて、上弦の月が7日、8日の月、満月が15日の月、下弦の月が22日、23日の月なんです」
「へえ、勉強になりますね」
「これ、義務教育で習う内容だと思うんですけど……」

 満月はあきれたような目で圭一を見た。

「はは……。も、もう学校で勉強したことなんてずっと昔のことですし、忘れてしまっても不思議ではないですよ」
「……そうですね。ずっと昔のことだから、忘れていても仕方がない……」

 何故か満月は寂しそうに呟いた。
 少し気まずくなったのか、圭一は時計を見て、

「あ、もうこんな時間です。今日はもうペンションに戻りますね」
「……そうですか。では、また明日」
「……えっ」

 満月のその言葉に一瞬怯んだが、すぐさま

「……ええ、また明日」

 と返答した。
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