満月

二見

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満月との出会い

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 湖に着くと、そこには夕方とは違った景色が広がっていた。ネットでの評判通り、夜空に浮かぶ月が、湖に綺麗に反射しており、その様子はまるで幻想世界への扉のようだった。圭一はしばらくその景色に見とれていた。他人から見れば、今の圭一は馬鹿げた面構えをしているように見えるだろう。
 我に返った圭一は、この美しい光景を写真に収めようとし、携帯電話を取り出してカメラを起動した。カメラのシャッター音が鳴ると突然、

「きゃっ!」

 と、どこからか声が聞こえてきた。圭一は酷く驚いて声がした方へと顔を向けた。そこには、白いドレスを着た長髪の女性の姿があった。

「あ、驚かせてすいません。そこにいるの気が付かなくって」

 女性の姿を確認した圭一は、すぐさま謝罪の言葉を述べた。

「いえ、大丈夫です。私も少し驚いてしまっただけなので。……この湖の写真を撮っていたんですか?」
「はい。あまりにも綺麗なものだったんで、つい」

 圭一は照れながら返答した。

「私も、この湖大好きなんです。正確には、湖に浮かぶ月が、なんですけどね」
「月、ですか。確かに綺麗ですよね。まるで、別世界につながる門みたいだと思ってたんですよ」
「門? ……ふふ。ずいぶんと詩的な表現をするんですね」

 女性がくすくすと笑う。その様子を見て、圭一はくさいセリフを言ってしまったな、と少し後悔していた。

「私、月が好きなんです。月が綺麗に見える場所を巡っている物好き女なんです」
 女性は胸についている満月のブローチに軽く触れた。
「あの、もしよろしかったらでいいんですけど、お名前を聞いてもいいですか?」
「名前ですか。僕は秋月圭一といいます」
「秋月さん、ですか。私はみつきといいます。満月と書いて、みつき、と読みます」
「名前まで月関連なんですね」

 そう言った後、圭一は失礼なことを言ってしまったんではないかと思い、申し訳なさそうな表情を浮かべた。
 その表情を見た満月は、

「気になさらないでください。私は気にしてませんから」

 と答えた。

「そういうあなたも、苗字に月が入っていますよね。私、秋の月って大好きなんです。夏に燃えすぎた太陽が沈み、出てくるのは秋の空を彩る月。燃えるような暑さから、徐々に涼しくなっていく様は、季節の変わり目を肌で感じ取ることができるので大好きなんです」
「それって、立秋のことですか?」
「その通りです。ちょうど明日ですよね。いえ、厳密にいえば後数分で8月8日になります。今日で夏の太陽は終わりなんですよ」

 夏の太陽の終わり。
 そう聞くと、夏の太陽を存分に味わえなかったことを少し後悔しそうだった。

「あ、たった今8月8日に変わりましたよ。今年最初に見る秋の月ですね」

 時計を確認していた満月が、空に浮かぶ月を見上げながら言った。
 今年最初に見る秋の月と聞くと、まるで初日の出を見ているような気分になった。

「今日からもう秋なんですか。明日も暑いって聞きますし、まだまだ夏って感じがしますけどね」
「そうですね」

 二人はしばらく無言になった。
 湖に吹く風が、二人の間を過ぎ去る。圭一は横目でちらりと満月を見た。長い黒髪が、風になびいている。髪が乱れないようにと抑えている様は、彼女の美しさを際立たせていた。
 吹き止まない風は、圭一の体を冷ましていた。圭一は上着を羽織っていたが、それでも湖風の寒さを防げず、身震いした。

「体が冷えてきたんで、そろそろ戻りますね」
「そうですか。風邪をひかないように気を付けてくださいね」
「……あの」

 立ち去る前に、圭一は満月に質問をした。

「満月さんは、一体どこに泊まっているんですか? 僕が泊まっているペンションでは見かけませんでしたし、ここから宿は近いんですか」
「……それは、秘密です」
 満月はそれ以上は何も言わなかった。
「……そうですか。女性一人での夜道は危険ですから、宿まで送っていこうと思ってたんですが」
「お気遣いありがとうございます。でも、私は大丈夫ですから」
「では、これでさようなら」
「ええ」

 圭一はペンションへ戻る道を歩み始めた。
 歩いている途中で振り返ると、満月はまだ湖にいた。一体いつまでいるのだろうか。気にはなったが、これ以上は心配しても無駄だと思い、そのままペンションへと歩き続けた。
 ペンションへ戻った圭一は、部屋に着くとすぐにベッドに倒れ、

「満月さんか。不思議な人だったな……」

 とつぶやき、そのまま眠りについた。
 その日は、安らかな夢を見れたような気がした。
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