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十六夜の月
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翌朝。
朝食を摂った後、圭一は食後のコーヒーを飲んでいた。
円型蛍光灯の光が、コーヒーに反射していた。まるで昨日見た湖に浮かぶ満月みたいだな、と圭一は呟いた。
昨日の満月の話から、圭一の様子が少しおかしくなっていた。
人生は、満ちては欠けていく。その言葉を聞いたときは、これからの人生に僅かな希望が持てたが、両親のことを思い返してからは、今の自分の情けなさに絶望していた。他人の言葉に影響されやすい奴だな、と自嘲する。
夜までどうやって時間を潰そうか、色々考えはしたが、何も思い浮かばなかった。
「そうだ。今日は彼女より早く湖に向かおう」
いつも先を越されていたので、今日ぐらいは先に湖に着いていたい。しかし、彼女が何時に湖に来るのかがわからないので、圭一は時間潰しも兼ねて、今から湖に向かうことにした。近くのコンビニで昼食と夕食を買って、湖で夜まで待機。こうすれば、流石に彼女の方が遅くなるはずだ。
「よし、じゃあ早速コンビニに行ってくるか」
圭一は行動を開始した。
湖についた圭一は、適当な場所にブルーシートを敷いて待機した。
湖には、ぽつぽつと人の姿があった。ほとんどが観光客だろう。穴場スポットなのでほとんど人は来ない。だから場所を取っていても問題はないだろうと考え、ここで夜まで待つことにした。とはいってもずっとここに座るだけではつまらないので、時折周囲を散歩したり、湖の中を覗いてどんな生き物がいるのかを確認したり、持ってきた小説やガイドブックを読んだり、少し昼寝をしたりして時間を潰した。
そうこうしているうちに時間も過ぎ、あっという間に夕暮れ時となった。もう間もなく約束の時間だ。圭一はそわそわし始めた。
「もうそろそろだよな……」
圭一は事あるごとに時計を見た。傍から見れば、不審者として通報されても文句は言えないほど怪しいだろう。
日が沈み、辺りが暗くなり始めた頃に、後ろから足跡が聞こえてきた。圭一が振り返ると、そこには驚いた表情を浮かべている満月の姿があった。
「秋月さん。今日はずいぶん早いんですね」
「いつも先を越されてましたから、今日は朝からずっとここにいたんですよ」
「朝から!? 退屈ではなかったんですか?」
「いろいろと、時間を潰すものはありましたから」
圭一はもってきた小説などを満月に見せた。
「そうですか……。長い時間待たせてしまったみたいですいません」
「いえ。それで、こんな早く僕を呼んだ理由は何なんですか。昨日言っていた、十六夜の月とは一体……?」
「秋月さん、空を見上げてみてください。今日はまだ月が出ていないでしょう」
「え?」
満月に言われ、空を見上げると、確かにまだ月が出ていなかった。満月を待つことばかり考えていたせいか、そのことに全く気が付かなかったのだ。
「あ、確かにまだ出ていませんね」
「満月の翌晩は、月の出がやや遅くなるんです。その様子を、月が出てくるのをためらっていると昔の人は見立てたんです。ためらうことを猶予うといいます。月が猶予う、猶予う月、十六夜の月と呼ぶようになったんです」
「へえー」
また一つ勉強になったな、と圭一は呑気な感想を述べた。
「十六夜の月は、陰暦8月15日の夜が満月の日でなければ見ることができない貴重なものなんですよ。それを、こんな見晴らしのいい場所で見ることができるなんて、もう二度とないことかもしれません」
「……そうですね。この景色は、一生の宝になりそうです……って」
そこで圭一は、満月の矛盾点に気づいた。
「陰暦の8月15日って、来月じゃないですか。今日は陰暦でいったら7月15日ですよ」
「あら、そのことは知っていたんですね。正直びっくりです」
「そりゃ、僕はあんまり頭はよくないですけど、流石にそれくらいはわかりますよ」
「そうですか、それはごめんなさい。でも、いいじゃないですか。私たちにとっては、今日は十六夜の月なんです」
満月は寂しそうに言った。
朝食を摂った後、圭一は食後のコーヒーを飲んでいた。
円型蛍光灯の光が、コーヒーに反射していた。まるで昨日見た湖に浮かぶ満月みたいだな、と圭一は呟いた。
昨日の満月の話から、圭一の様子が少しおかしくなっていた。
人生は、満ちては欠けていく。その言葉を聞いたときは、これからの人生に僅かな希望が持てたが、両親のことを思い返してからは、今の自分の情けなさに絶望していた。他人の言葉に影響されやすい奴だな、と自嘲する。
夜までどうやって時間を潰そうか、色々考えはしたが、何も思い浮かばなかった。
「そうだ。今日は彼女より早く湖に向かおう」
いつも先を越されていたので、今日ぐらいは先に湖に着いていたい。しかし、彼女が何時に湖に来るのかがわからないので、圭一は時間潰しも兼ねて、今から湖に向かうことにした。近くのコンビニで昼食と夕食を買って、湖で夜まで待機。こうすれば、流石に彼女の方が遅くなるはずだ。
「よし、じゃあ早速コンビニに行ってくるか」
圭一は行動を開始した。
湖についた圭一は、適当な場所にブルーシートを敷いて待機した。
湖には、ぽつぽつと人の姿があった。ほとんどが観光客だろう。穴場スポットなのでほとんど人は来ない。だから場所を取っていても問題はないだろうと考え、ここで夜まで待つことにした。とはいってもずっとここに座るだけではつまらないので、時折周囲を散歩したり、湖の中を覗いてどんな生き物がいるのかを確認したり、持ってきた小説やガイドブックを読んだり、少し昼寝をしたりして時間を潰した。
そうこうしているうちに時間も過ぎ、あっという間に夕暮れ時となった。もう間もなく約束の時間だ。圭一はそわそわし始めた。
「もうそろそろだよな……」
圭一は事あるごとに時計を見た。傍から見れば、不審者として通報されても文句は言えないほど怪しいだろう。
日が沈み、辺りが暗くなり始めた頃に、後ろから足跡が聞こえてきた。圭一が振り返ると、そこには驚いた表情を浮かべている満月の姿があった。
「秋月さん。今日はずいぶん早いんですね」
「いつも先を越されてましたから、今日は朝からずっとここにいたんですよ」
「朝から!? 退屈ではなかったんですか?」
「いろいろと、時間を潰すものはありましたから」
圭一はもってきた小説などを満月に見せた。
「そうですか……。長い時間待たせてしまったみたいですいません」
「いえ。それで、こんな早く僕を呼んだ理由は何なんですか。昨日言っていた、十六夜の月とは一体……?」
「秋月さん、空を見上げてみてください。今日はまだ月が出ていないでしょう」
「え?」
満月に言われ、空を見上げると、確かにまだ月が出ていなかった。満月を待つことばかり考えていたせいか、そのことに全く気が付かなかったのだ。
「あ、確かにまだ出ていませんね」
「満月の翌晩は、月の出がやや遅くなるんです。その様子を、月が出てくるのをためらっていると昔の人は見立てたんです。ためらうことを猶予うといいます。月が猶予う、猶予う月、十六夜の月と呼ぶようになったんです」
「へえー」
また一つ勉強になったな、と圭一は呑気な感想を述べた。
「十六夜の月は、陰暦8月15日の夜が満月の日でなければ見ることができない貴重なものなんですよ。それを、こんな見晴らしのいい場所で見ることができるなんて、もう二度とないことかもしれません」
「……そうですね。この景色は、一生の宝になりそうです……って」
そこで圭一は、満月の矛盾点に気づいた。
「陰暦の8月15日って、来月じゃないですか。今日は陰暦でいったら7月15日ですよ」
「あら、そのことは知っていたんですね。正直びっくりです」
「そりゃ、僕はあんまり頭はよくないですけど、流石にそれくらいはわかりますよ」
「そうですか、それはごめんなさい。でも、いいじゃないですか。私たちにとっては、今日は十六夜の月なんです」
満月は寂しそうに言った。
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