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別れ
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その言葉を最後に、二人は沈黙した。その様子は、傍から見れば景色を楽しんでいるようにも見え、同時に二人が話しかけるタイミングを計っているようにも見えた。
「秋月さんは、明日帰られるんですよね」
「……ええ」
「では、今日で会うのも最後になるわけですね」
「そうですね」
「帰ったら、お仕事頑張って見つけてくださいね」
「ええ。頑張ります」
またしばらくの沈黙。
それから何分経ったのだろうか。もしかしたら、何時間も過ぎていたかもしれない。しかし、今の二人は時間を忘れてただ空に浮かぶ月を眺めていた。
「……そろそろ、別れましょう」
満月の言葉に、圭一は我に返った。
「では、さようなら」
「ま、待ってください!」
満月が森の奥へと向かおうとしたが、圭一は大声で止めた。
「……何でしょう」
「……正直、このまま別れたくないです。僕は、この一週間満月さんからたくさんの元気をもらいました。だから、是非お礼をしたいんです。向こうに戻ったら、会うことはできませんか?」
「……それは、できません」
「僕は、もっとあなたのことを知りたいんです!」
圭一の真剣な眼差しに、満月は顔を逸らした。
「……ごめんなさい」
満月はか弱い声を絞り出した。
「出逢いが早ければ……」
満月は何かを云いかけたが、その言葉を噤んでしまった。
「……さようなら、圭一さん」
満月は哀しく微笑い、森へと走り出してしまった。
「待って、満月さん!」
圭一は後を追ったが、森に入った途中で見失ってしまった。
「……くそっ」
圭一はその場で立ち尽くした。
その日から、満月が湖に来ることはなかった。
あれから一週間後。圭一は未だに湖のペンションにいた。
もしかしたら、満月が現れるかもしれないと思ったからだ。しかし、その期待は裏切られた。日が沈んでから日が昇るまで待っても、彼女は現れなかったのだ。
昼はずっとペンションで睡眠をとり、夜は日が沈んでから日が昇るまでずっと待つ、こんな日々を送っていた。流石にオーナーに心配されたので、今日を境に家へ帰ることにしたのだ。
最初に想定していた以上にペンションに泊まっていたため、旅の資金は底をついていた。これ以上浪費したら今後の生活にも関わる。家に帰るしか、道はなかった。
圭一は自宅への帰路の途中も、満月について考えていた。彼女は一体何者だったのか、どこからあの湖に来ていたのか、何故突然来なくなったのか、いくら考えても答えは出なかった。
バイクで約五時間走り、自宅に着くとすぐにベッドへ倒れた。とにかく今は何もしたくない。何も考えたくなかった。旅の疲れもあってか、圭一はすぐに眠りについた。
翌日目を覚ますと、時間は既に夕刻だった。丸一日寝ていたからか、頭の中はすっきりしていた。今までのモヤモヤが、体から抜けていったようだった。
「……明日から、また頑張らなきゃだな」
圭一は不思議な夢を見ていた。満月が、圭一に何かを語りかけていた夢だった。その内容を思い出すことは出来なかったが、何となくその言葉はわかるような気がした。その言葉を聞いたからこそ、頭の中がすっきりしていたのかもしれない。
「よし、まずは就活からだ。どんな辛い仕事だろうが、やり遂げて見せる。人生は、満ちては欠けていくものだ。今は辛くても、いつかきっと幸せになる日が来るはずだ!」
今までの現実逃避をしていた圭一と違って、今の圭一は前を向いていた。ゼロからのスタートだが、死にもの狂いで頑張っていけば道が開けるような気がしていた。
「秋月さんは、明日帰られるんですよね」
「……ええ」
「では、今日で会うのも最後になるわけですね」
「そうですね」
「帰ったら、お仕事頑張って見つけてくださいね」
「ええ。頑張ります」
またしばらくの沈黙。
それから何分経ったのだろうか。もしかしたら、何時間も過ぎていたかもしれない。しかし、今の二人は時間を忘れてただ空に浮かぶ月を眺めていた。
「……そろそろ、別れましょう」
満月の言葉に、圭一は我に返った。
「では、さようなら」
「ま、待ってください!」
満月が森の奥へと向かおうとしたが、圭一は大声で止めた。
「……何でしょう」
「……正直、このまま別れたくないです。僕は、この一週間満月さんからたくさんの元気をもらいました。だから、是非お礼をしたいんです。向こうに戻ったら、会うことはできませんか?」
「……それは、できません」
「僕は、もっとあなたのことを知りたいんです!」
圭一の真剣な眼差しに、満月は顔を逸らした。
「……ごめんなさい」
満月はか弱い声を絞り出した。
「出逢いが早ければ……」
満月は何かを云いかけたが、その言葉を噤んでしまった。
「……さようなら、圭一さん」
満月は哀しく微笑い、森へと走り出してしまった。
「待って、満月さん!」
圭一は後を追ったが、森に入った途中で見失ってしまった。
「……くそっ」
圭一はその場で立ち尽くした。
その日から、満月が湖に来ることはなかった。
あれから一週間後。圭一は未だに湖のペンションにいた。
もしかしたら、満月が現れるかもしれないと思ったからだ。しかし、その期待は裏切られた。日が沈んでから日が昇るまで待っても、彼女は現れなかったのだ。
昼はずっとペンションで睡眠をとり、夜は日が沈んでから日が昇るまでずっと待つ、こんな日々を送っていた。流石にオーナーに心配されたので、今日を境に家へ帰ることにしたのだ。
最初に想定していた以上にペンションに泊まっていたため、旅の資金は底をついていた。これ以上浪費したら今後の生活にも関わる。家に帰るしか、道はなかった。
圭一は自宅への帰路の途中も、満月について考えていた。彼女は一体何者だったのか、どこからあの湖に来ていたのか、何故突然来なくなったのか、いくら考えても答えは出なかった。
バイクで約五時間走り、自宅に着くとすぐにベッドへ倒れた。とにかく今は何もしたくない。何も考えたくなかった。旅の疲れもあってか、圭一はすぐに眠りについた。
翌日目を覚ますと、時間は既に夕刻だった。丸一日寝ていたからか、頭の中はすっきりしていた。今までのモヤモヤが、体から抜けていったようだった。
「……明日から、また頑張らなきゃだな」
圭一は不思議な夢を見ていた。満月が、圭一に何かを語りかけていた夢だった。その内容を思い出すことは出来なかったが、何となくその言葉はわかるような気がした。その言葉を聞いたからこそ、頭の中がすっきりしていたのかもしれない。
「よし、まずは就活からだ。どんな辛い仕事だろうが、やり遂げて見せる。人生は、満ちては欠けていくものだ。今は辛くても、いつかきっと幸せになる日が来るはずだ!」
今までの現実逃避をしていた圭一と違って、今の圭一は前を向いていた。ゼロからのスタートだが、死にもの狂いで頑張っていけば道が開けるような気がしていた。
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