彼女に6回浮気されて婚約破棄になるまでの実話(社会人編)

つむじ

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第一章 リラクゼーションの男

修羅場2

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「えっ!まじで。」

幼馴染は目をまんまるくしていた。
僕らは動向を見守ることしかできなかった。

どうやら、石原さんは彼女の家のインターホンを鳴らしているようだった。
しかし、彼女が出てくる気配はない。

「あいつ、居留守してるな。」

僕がそう言うと、幼馴染が続けて言った。

「でも、向こうもお前の車知ってるんでしょ?ってことは、向こうもお前が今すぐそこにいるって気付いてるってことだよね?」

そう。つまり石原さんは、彼女が家にいるとわかっている。おそらく、彼女が家から出てくるまで帰らないだろう。

「今、下手に出ていったらまずいよね?」

僕は幼馴染に聞いてみた。

「まずいんじゃない?」

幼馴染は2本目の煙草に火をつけながら、そう答えた。

すると、奇跡が起きた。
彼女のお母さんが帰ってきたのだ。

「あ!お母さんだ!」

救いの女神だと思った。
僕は車から降りて、すぐに彼女のお母さんに駆け寄った。

「大変!大変!浮気相手が家の玄関まで来てて、やばいことになってます。ちょっと助けてください。」

彼女のお母さんは突然の事に驚いた様子だったが、すぐに状況を理解したようだった。

「はぁ~?もう、超面倒くさいんだけど。それで今、あいつ居留守してるわけ?わかった。ちょっと行ってくる。」

そう言うと、彼女のお母さんは家の玄関へと向かっていった。

それから僕は再び車に戻り、幼馴染と動向を伺っていた。

すると、彼女のお母さんは石原さんに軽く会釈をしていた。
その後、家の中へ入っていき、彼女が家から出てきた。
彼女は家の玄関で、石原さんと何か話しているようだった。
僕らにその会話は聞こえない。

それから、2人は彼女の家の裏手にある空き地のほうへ歩いていき、車からは2人の姿が見えなくなってしまった。

僕は、ただ彼女が戻ってくるのを待つことしかできなかった。
どれくらい経っただろうか。
2人が空き地のほうへ行ってから、15分くらいは経った気がする。

すると、彼女が1人でこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

「話終わったのかな?」

幼馴染がそう言うと、
彼女がこちらに向かって手招きをした。

「ちょっと、行ってくるわ。」

幼馴染にそう言い残して、僕は彼女の元へと向かった。
僕が駆け寄ると、彼女は少し面倒くさそうな顔で僕に言った。

「石原さんが2人で話したい。って言ってる。」

僕は想定外の展開に少し動揺した。

「え?何話すの?」

僕がそう聞くと、彼女は変わらず面倒くさそうな顔をしたまま言った。

「わからない。」

罵られるのか?殴られるのか?と頭をよぎったが、僕が行かないことには、この場は終わらないと思った。

「わかった。幼馴染と車の中にいな。」

そう彼女に告げて、僕は裏手の空き地へ歩き出した。

"大丈夫だ。"
1発殴られたって構わない。
そんなことで死にはしない。と、
頭の中で呪文のように唱えながら歩いた。
そして、大きく息を吐き、空き地へ入ると、予想もしていなかった光景が目の前に飛び込んできた。

空き地の真ん中で、石原さんが土下座をしていた。
僕は何が起こっているのかわからなかった。
驚きながら、恐る恐る石原さんに近付くと、石原さんは地面に頭をつけたまま喋り出した。

「大人げない行動をしてしまったことは反省しています。苛々して、つい物に当たってしまった。彼女に怖い思いをさせてしまった。でも、今ではとても後悔しています。お願いします。僕にもう1度チャンスをください。」

僕は困惑した。
目の前の状況に、何から手を付けていいのかわからなかった。

「あ、えーと。そんな。頭を上げてください。」

僕がそっと石原さんの身体を起こしながら、そう言うと、石原さんはゆっくり頭を上げて立ち上がった。

その瞬間、石原さんと目が合った。
あの日と同じ、今にも泣き出しそうな子犬のような目をしていた。
目は真っ赤に充血し、顔が疲れているのが暗くても分かった。
殴られるかも。と思っていた自分がアホらしく感じるほど、石原さんは衰弱していた。

そんな石原さんの姿は、あの日の自分と重なって見えた。

"あの日の僕と同じだ。"

僕は大人相手に言葉を選びながら、思いの丈をぶつけた。

「あいつに石原さんのことで、"暴力的なところがある"と聞いたとき、正直、"戻ってこいよ"って心の中で思いました。
でも、僕はあいつに言えませんでした。
それは、強引に手を引っぱっても、同じ事の繰り返しになる気がしたから。
あいつ自身で選択しないと意味がないと思ったから。
それに、石原さんを苦しめてしまうかもしれない。と思って僕は言えませんでした。
でも、石原さんは今、強引にあいつの手を引っぱろうとしている。
もう1度チャンスをください。は僕に言う言葉じゃありません。
少なくとも今のあなたよりは、僕のほうがあいつを幸せにできる自信があります。」

言葉は選んだつもりだったが、少し言い過ぎたかもしれない。
そう思った。

少しの沈黙の後、石原さんは俯きながら細々とした声でこう答えた。

「そうだね。君の言う通りだと思う。情けないね。」

石原さんはそれ以上何も言わなかった。
そして、ゆっくりと歩き出した。

僕は、歩き出す背中を見てかける言葉が見つからなかった。

石原さんが車の運転席に乗り込むと、すぐにワーゲンにエンジンがかかった。

そのまま、こちらを見ることもなく、ワーゲンはゆっくり大通りへと走っていった。

結局、石原さんを苦しめてしまった。
どっと疲れた。
僕は車へ戻り、煙草に火を付けた。

「なんの話だったの?」

すぐに彼女が聞いてきた。

「土下座された。"もう1度チャンスください。"って。」

僕がそう言うと、彼女はさらに聞いてきた。

「え?それで?なんて言ったの?」

僕は、煙草の煙を吐き出しながら答えた。

「"あげない。"って。」

幼馴染は笑っていた。

「さて、浅草向かいますか~。年越しだ!この話はもう終わり!新年迎えに行こうぜ!」

僕はそう言いながらシートベルトを締めた。

これで全て終わった。
"もう、石原さんと会うこともないだろう。"

そう思っていた。
このときは、まだ。

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