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エスメラルダの驚き
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盗賊のリーダーは、エスメラルダが質問しているのに、だんまりだった。どうやら頭が良くないらしい。エスメラルダは手間がかかると思いながら、丁寧に説明をした。
「私の妹が言ったの。どんな悪人でも、心が変わる時があるって」
リーダーの盗賊は渋面を作りながら答えた。
「そんなわけあるかよ。俺はこの世に生まれた時からずっと悪党だったのよ。今までもこれからも、ずっと悪党だ」
「そうよね、私もそう思うわ。悪人はどこまでいっても悪人。ひと思いに殺してしまうのが世の中のためだと思うわ」
リーダーの男は顔をしかめて黙った。一丁前に傷ついてでもいるのだろうか。悪人になるのは、生まれ育った環境もあるだろう。だが過酷な環境でも善人になる人間もいる。結局は人間の持って生まれた資質なのだ。
この男は自ら望んで悪人の道を選んだのだ。当然自分のしてきた罪を償わなくてはいけない。
エスメラルダは少し考えてから言葉を続けた。
「だから私は目の前にいた三人の悪人を始末しようとした。チリも残さずに消すつもりだった。だけどできなかった。妹が三人の悪人をかばったから」
そこで盗賊のリーダーは、驚いたようにエスメラルダを見上げて言った。
「お前の妹は、悪人をかばったのか?」
「ええ。私の魔法が当たれば、自分が死んでしまうかもしれないのに。しかも三人の悪人は、妹に危害を加えようとしていたのよ。それなのに、妹は命がけで悪人を守った」
「・・・。お前の妹は、バカなのか?」
「失礼ね!私の妹がバカなわけないでしょう!」
エスメラルダはプリシラをバカにされ、頭に血がのぼった。この男はやはり殺してしまおうかと考えていたところ、男は小さな声で、つぶやくように言った。
エスメラルダに聞かせるというより、ひとり言のようだった。
「いや、バカだって身の危険が迫れば逃げるはずだ。なら、お前の妹は、きっと天使なのかもな」
プリシラは天使。エスメラルダの中で、ストンと何かがおさまった気がした。エスメラルダはこれまで、妹のプリシラは天使のように美しく愛らしいと常々思っていた。
他人に言わせれば身内びいきと言われてしまう。だがこの盗賊の男からすれば、プリシラの行いは、天使のようにうつったのだろう。
盗賊のくせにいい事を言うではないか。エスメラルダは、先ほどまでの怒りは消えて寛大な気持ちになった。エスメラルダは自慢げに言った。
「私の妹が可愛く言うのよ。先ずはお姉ちゃんの安全を第一にしてって。だけど、少しだけ余裕があるなら、悪人を殺さずに捕まえてって。感謝しなさい?貴方たちを殺さなかったのは、妹がお願いしたからなのよ?貴方が今生きているのは妹のおかげなのよ?」
リーダーの盗賊はぼんやりとしながら言った。
「なぁ、俺は変わる事ができるのだろうか?」
「そんなの私が知るわけないでしょう?変わるか変わらないかなんて貴方次第じゃない。貴方が変われると思えば変われるし、変われないと思えば変われないんじゃない?少なくとも妹は変われると信じているわ」
エスメラルダの答えに、盗賊のリーダーはそれまでとは違う、おだやかな表情で沈黙した。しばらくすると小さな声で言った。
「なぁ、あんた。妹に礼を言ってくれないか?悪人の俺たちの事を気にかけてくれてありがとうって」
「仕方ないわねぇ、いいわよ。私は妹とすぐに会えるんだから。私が妹に会いに行くと、お姉ちゃんってとっても喜んでくれるんだから」
エスメラルダはとうとうと妹自慢をしてから、我が目を疑った。盗賊の男は笑ったのだ。とてもやすらかな表情で。エスメラルダは人間の心が変わる瞬間を目の当たりにしたのだ。
プリシラの考えは正しかったのだ。たとえどんな悪人でも、何かのきっかけで心がガラリと変わる事があるのだ。盗賊のリーダーは、プリシラの信念により、会心したのだ。
盗賊のリーダーは大人しくなり、エスメラルダに協力的になった。盗賊団の人数、統領とリーダーの事を話してくれた。
エスメラルダは大きな空間魔法の出入り口を作ると、騎士団を連れて来た。盗賊団は騎士団に捕縛され、エスメラルダは依頼を完了させた。
「私の妹が言ったの。どんな悪人でも、心が変わる時があるって」
リーダーの盗賊は渋面を作りながら答えた。
「そんなわけあるかよ。俺はこの世に生まれた時からずっと悪党だったのよ。今までもこれからも、ずっと悪党だ」
「そうよね、私もそう思うわ。悪人はどこまでいっても悪人。ひと思いに殺してしまうのが世の中のためだと思うわ」
リーダーの男は顔をしかめて黙った。一丁前に傷ついてでもいるのだろうか。悪人になるのは、生まれ育った環境もあるだろう。だが過酷な環境でも善人になる人間もいる。結局は人間の持って生まれた資質なのだ。
この男は自ら望んで悪人の道を選んだのだ。当然自分のしてきた罪を償わなくてはいけない。
エスメラルダは少し考えてから言葉を続けた。
「だから私は目の前にいた三人の悪人を始末しようとした。チリも残さずに消すつもりだった。だけどできなかった。妹が三人の悪人をかばったから」
そこで盗賊のリーダーは、驚いたようにエスメラルダを見上げて言った。
「お前の妹は、悪人をかばったのか?」
「ええ。私の魔法が当たれば、自分が死んでしまうかもしれないのに。しかも三人の悪人は、妹に危害を加えようとしていたのよ。それなのに、妹は命がけで悪人を守った」
「・・・。お前の妹は、バカなのか?」
「失礼ね!私の妹がバカなわけないでしょう!」
エスメラルダはプリシラをバカにされ、頭に血がのぼった。この男はやはり殺してしまおうかと考えていたところ、男は小さな声で、つぶやくように言った。
エスメラルダに聞かせるというより、ひとり言のようだった。
「いや、バカだって身の危険が迫れば逃げるはずだ。なら、お前の妹は、きっと天使なのかもな」
プリシラは天使。エスメラルダの中で、ストンと何かがおさまった気がした。エスメラルダはこれまで、妹のプリシラは天使のように美しく愛らしいと常々思っていた。
他人に言わせれば身内びいきと言われてしまう。だがこの盗賊の男からすれば、プリシラの行いは、天使のようにうつったのだろう。
盗賊のくせにいい事を言うではないか。エスメラルダは、先ほどまでの怒りは消えて寛大な気持ちになった。エスメラルダは自慢げに言った。
「私の妹が可愛く言うのよ。先ずはお姉ちゃんの安全を第一にしてって。だけど、少しだけ余裕があるなら、悪人を殺さずに捕まえてって。感謝しなさい?貴方たちを殺さなかったのは、妹がお願いしたからなのよ?貴方が今生きているのは妹のおかげなのよ?」
リーダーの盗賊はぼんやりとしながら言った。
「なぁ、俺は変わる事ができるのだろうか?」
「そんなの私が知るわけないでしょう?変わるか変わらないかなんて貴方次第じゃない。貴方が変われると思えば変われるし、変われないと思えば変われないんじゃない?少なくとも妹は変われると信じているわ」
エスメラルダの答えに、盗賊のリーダーはそれまでとは違う、おだやかな表情で沈黙した。しばらくすると小さな声で言った。
「なぁ、あんた。妹に礼を言ってくれないか?悪人の俺たちの事を気にかけてくれてありがとうって」
「仕方ないわねぇ、いいわよ。私は妹とすぐに会えるんだから。私が妹に会いに行くと、お姉ちゃんってとっても喜んでくれるんだから」
エスメラルダはとうとうと妹自慢をしてから、我が目を疑った。盗賊の男は笑ったのだ。とてもやすらかな表情で。エスメラルダは人間の心が変わる瞬間を目の当たりにしたのだ。
プリシラの考えは正しかったのだ。たとえどんな悪人でも、何かのきっかけで心がガラリと変わる事があるのだ。盗賊のリーダーは、プリシラの信念により、会心したのだ。
盗賊のリーダーは大人しくなり、エスメラルダに協力的になった。盗賊団の人数、統領とリーダーの事を話してくれた。
エスメラルダは大きな空間魔法の出入り口を作ると、騎士団を連れて来た。盗賊団は騎士団に捕縛され、エスメラルダは依頼を完了させた。
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