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パルヴィス公爵と夫人
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プリシラたちが一息ついた時、ノックもなくドアが開いた。中に髪の毛を振りみだした公爵夫人が飛び込んできた。
「あなた!」
公爵夫人は、血まみれの夫を目の当たりにして、ヒィッと悲鳴をあげた。プリシラは慌てて立ち上がった。
「奥さま!公爵さまはご無事です。公爵さまに害をなす宝石は取り除きました。公爵さまは、もう死におびやかされる事はないのです」
「主人は、助かるの?」
公爵夫人はふらふらと夫の枕元にくずおれると、一言夫を呼んだ。
「あなた?」
妻の声に、パルヴィス公爵はゆっくりと目を開いて、愛する妻を見上げた。
「サスキア」
「あなた!」
公爵夫人は涙をボロボロ流しながら、小さな子供のように泣きじゃくった。
「あなた、あなた。わたくしを置いていかない?わたくしをひとりぼっちにしない?あなたがいなくなってしまうのはとっても怖いの」
「ああ、ずっとお前の側にいる。そして二人で、海に沈む夕陽を見よう」
公爵夫人は、夫にとりすがりながら、わんわんと泣いている。これまでがまんしていたものが一気に吹き出したようだった。公爵は妻の頭を優しく撫でていた。
プリシラとタップは、定期的に公爵に回復魔法をする事を約束して、公爵家を辞した。
マージ運送会社への帰り道、プリシラを乗せたタップがぼやくように言った。
『たく、プリシラも無茶するぜ。じじぃが生きていたからいいけどよ』
「タップ、心配させてごめんね?だけどね、公爵さまが死んでも生きていてもどっちでもいいって気持ちだったら、きっと公爵さまは亡くなられていたと思うの。公爵さまが、心の底から生きたいと思わなければね」
タップは、そんなものかと納得しようとしてくれている。プリシラは間を置いてから口を開いた。
「あのね、タップ。私、小さい頃、風魔法の練習をしても全然上手にならなかったの。お姉ちゃんに、私は風魔法はうまくなれないって、泣き言を言ったら、お姉ちゃんに言われたの。プリシラが心の底から、自分ができるって思わなければ、うまくなるわけないって。そして、お姉ちゃんは、いつもこう言ってた。言葉に出して宣言しなさいって」
『宣言?』
「そう。言葉に出して言うと、その言葉に責任をもたなければいけないって。それから私はいつも口に出して言うようにしたの。私は風魔法を絶対に上達させるって。不思議な事に、言葉に出して言うようになってから、私の風魔法は上達したの」
『へぇ。悪魔姉ちゃんにしてはいい事言うじゃねぇか』
「そうよ、お姉ちゃんの言う事は正しかった。だから私は、公爵さまに心の底から生きたいと願って、声に出して宣言してほしかったの。それにね、タップはあの時、公爵さまは助かるかもしれない、助からないかもしれないと言ったわ。霊獣のタップが助かるかもしれないと言ったなら、きっと実現するって思ったの」
『!。ま、まぁな!俺は尊い霊獣だからな!この世に不可能なんてあんまり無いんだぜ!』
「ええ、タップ。本当にありがとう。これからは元気になった公爵さまと奥さまは、きっとお幸せに過ごせるんだわ」
『嬉しそうだな、プリシラ。じじぃが死のうが生きようが、お前には関係ないと思うんだがな』
「あら、そんな事ないわ。私は公爵さまと奥さまに出会った。それだけでも大切な縁だわ。私と関わった人たちが幸せになるなんて、こんな嬉しい事はないわ」
『プリシラは本当におめでたい奴だな!さすが俺が選んだ契約者だぜ!』
「タップ、それ褒めてるの?」
プリシラはぶっちょう面になってタップに聞くと、タップは楽しそうにゲラゲラ笑いながら答えた。
『どうでもいいだろ、そんな事。早く帰ろうぜ。マージとトビーが遅ぇって気をもんでるぜ?』
「あ!そうだった。こんなに遅くなったら二人とも心配してしまうわ。タップ、急いで帰ろう!」
タップは、しっかりつかまっていろよ、と一声かけてから空を飛ぶ速度を速めた。プリシラはふり落とされないように、しっかりとタップの背中にしがみついた。
「あなた!」
公爵夫人は、血まみれの夫を目の当たりにして、ヒィッと悲鳴をあげた。プリシラは慌てて立ち上がった。
「奥さま!公爵さまはご無事です。公爵さまに害をなす宝石は取り除きました。公爵さまは、もう死におびやかされる事はないのです」
「主人は、助かるの?」
公爵夫人はふらふらと夫の枕元にくずおれると、一言夫を呼んだ。
「あなた?」
妻の声に、パルヴィス公爵はゆっくりと目を開いて、愛する妻を見上げた。
「サスキア」
「あなた!」
公爵夫人は涙をボロボロ流しながら、小さな子供のように泣きじゃくった。
「あなた、あなた。わたくしを置いていかない?わたくしをひとりぼっちにしない?あなたがいなくなってしまうのはとっても怖いの」
「ああ、ずっとお前の側にいる。そして二人で、海に沈む夕陽を見よう」
公爵夫人は、夫にとりすがりながら、わんわんと泣いている。これまでがまんしていたものが一気に吹き出したようだった。公爵は妻の頭を優しく撫でていた。
プリシラとタップは、定期的に公爵に回復魔法をする事を約束して、公爵家を辞した。
マージ運送会社への帰り道、プリシラを乗せたタップがぼやくように言った。
『たく、プリシラも無茶するぜ。じじぃが生きていたからいいけどよ』
「タップ、心配させてごめんね?だけどね、公爵さまが死んでも生きていてもどっちでもいいって気持ちだったら、きっと公爵さまは亡くなられていたと思うの。公爵さまが、心の底から生きたいと思わなければね」
タップは、そんなものかと納得しようとしてくれている。プリシラは間を置いてから口を開いた。
「あのね、タップ。私、小さい頃、風魔法の練習をしても全然上手にならなかったの。お姉ちゃんに、私は風魔法はうまくなれないって、泣き言を言ったら、お姉ちゃんに言われたの。プリシラが心の底から、自分ができるって思わなければ、うまくなるわけないって。そして、お姉ちゃんは、いつもこう言ってた。言葉に出して宣言しなさいって」
『宣言?』
「そう。言葉に出して言うと、その言葉に責任をもたなければいけないって。それから私はいつも口に出して言うようにしたの。私は風魔法を絶対に上達させるって。不思議な事に、言葉に出して言うようになってから、私の風魔法は上達したの」
『へぇ。悪魔姉ちゃんにしてはいい事言うじゃねぇか』
「そうよ、お姉ちゃんの言う事は正しかった。だから私は、公爵さまに心の底から生きたいと願って、声に出して宣言してほしかったの。それにね、タップはあの時、公爵さまは助かるかもしれない、助からないかもしれないと言ったわ。霊獣のタップが助かるかもしれないと言ったなら、きっと実現するって思ったの」
『!。ま、まぁな!俺は尊い霊獣だからな!この世に不可能なんてあんまり無いんだぜ!』
「ええ、タップ。本当にありがとう。これからは元気になった公爵さまと奥さまは、きっとお幸せに過ごせるんだわ」
『嬉しそうだな、プリシラ。じじぃが死のうが生きようが、お前には関係ないと思うんだがな』
「あら、そんな事ないわ。私は公爵さまと奥さまに出会った。それだけでも大切な縁だわ。私と関わった人たちが幸せになるなんて、こんな嬉しい事はないわ」
『プリシラは本当におめでたい奴だな!さすが俺が選んだ契約者だぜ!』
「タップ、それ褒めてるの?」
プリシラはぶっちょう面になってタップに聞くと、タップは楽しそうにゲラゲラ笑いながら答えた。
『どうでもいいだろ、そんな事。早く帰ろうぜ。マージとトビーが遅ぇって気をもんでるぜ?』
「あ!そうだった。こんなに遅くなったら二人とも心配してしまうわ。タップ、急いで帰ろう!」
タップは、しっかりつかまっていろよ、と一声かけてから空を飛ぶ速度を速めた。プリシラはふり落とされないように、しっかりとタップの背中にしがみついた。
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