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美しい令嬢

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 ベルニ子爵夫妻は期待と不安に満ちあふれながら社交界に参加した。顔見知りの貴族たちと腹の探り合いのような会話をしながら、それとなく新たに社交界デビューをする令嬢たちの顔をうかがった。

 彼女たちがこれからエスメラルダのライバルになるのだから。令嬢たちは皆初々しく、若さと美しさで輝いていた。

 その中に一際美しい令嬢がいた。一体誰だろうか。その令嬢は、亜麻色の髪を結いあげ、ダイヤモンドを散りばめたティアラをかむり、肌は雪のように白く、瞳は琥珀のように神秘的な輝きをしていた。ドレスはほっそりとした身体にピッタリとした純白のドレス。プリンセスラインのドレスが少女の可愛らしさを、美しいデコルテがさらされた胸元は、大人の美しさをかもしだしていた。

 胸元にはたくさんのダイヤモンドが散りばめられた見事なネックレスが輝いている。ドレスと装飾品だけでも、彼女が高貴なところの令嬢だという事がうかがえる。

 令嬢たちの中で彼女が抜きん出て美しかった。そこでベルニ子爵夫妻は疑問に思った。貴族には貴族名鑑という書物があり、どこの貴族の家にどの令嬢がいるかすべて把握できるのだ。だがあの美しい令嬢が、どの貴族令嬢かわからなかった。

 ベルニ子爵はとなりにいる男爵にコソリと声をかけた。

「あの亜麻色の髪の美しいご令嬢はどこの方なのでしょう?」
「ああ、あのご令嬢はパルヴィス公爵家のご令嬢です」

 そこでベルニ子爵は驚いた。パルヴィス公爵には子供はいないはずだ。そうなれば養子を迎えたという事だ。

 それまでパルヴィス公爵は養子を持たなかった。貴族のあいだでも、パルヴィス公爵家は今後どうなるのかと、かげで噂されていた。あのような美しい令嬢が養女になれば、きっとよい伴侶が見つかり、パルヴィス公爵家を継いでくれるだろう。

 ベルニ子爵がぼんやりと美しい令嬢を見つめていると、無作法にも妻がベルニ子爵の礼服のそでを引っ張った。ベルニ子爵は妻をキッとにらむと、彼女は泡を食ったような顔で言った。

「あ、あなた。あれ、プリシラだわ」

 ベルニ子爵は一瞬顔をしかめた。その名前は、ベルニ子爵家の最大の汚点だったからだ。

 だがあらためてパルヴィス公爵家の令嬢を見てみると、確かに見覚えのある娘だった。

 ベルニ子爵は汚点として黙殺した娘の顔を思い浮かべようとしたが、うまくいかなかった。それだけ興味がなかったからだ。

 何故平民に身を落としたプリシラが、公爵家の養女になったのだろうか。一番考えられるのは、パルヴィス公爵の愛人という線だ。貴族は囲う愛人の年齢が若すぎると、養女に迎える事がある。

 だがパルヴィス公爵夫人は存命だ。いくら愛人とはいえ、奥方の目をかいくぐって養女とするのは難しいだろう。

 ベルニ子爵がグルグルと考え込んでいる間に、ダンスが始まった。

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