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エスメラルダの決断

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 エスメラルダは夜中にパチリと目を覚ました。となりに眠っている妹を起こさないように、ゆっくりと身体を起こす。

 プリシラは気持ちよさそうに眠っている。エスメラルダはホッと息をはいた。エスメラルダがこれまでに見ていたプリシラの寝顔は、いつも苦しみに満ちていた。

 エスメラルダが魔法学校に入学して、休みに自宅の屋敷に帰って来る時、プリシラは決まって一緒に寝てとねだった。眠る前は嬉しそうにはしゃいでいたのに、眠ってしまうと、必ず悪夢にうなされているのだ。

 プリシラは苦悶の表情を浮かべながら、両親を呼び、エスメラルダに行かないでと寝言を繰り返した。たまらずプリシラを揺りおこすと、プリシラはびっくりした顔をしてから、涙を流して微笑むのだ。

 お姉さま、ここにいてくれたんですね。どこにも行かないでくださいね。

 プリシラは安心したように眠り直すのが常だった。

 だがプリシラはもう悪夢に悩まされる事は無いのだ。生涯を共にする契約霊獣の毛玉。プリシラを心から愛してくれる両親。共に笑い、泣いてくれる友達。プリシラただ一人を愛してくれる恋人。

 プリシラはすべてを手に入れたのだ。もう、エスメラルダは必要ないのだ。

 エスメラルダはプリシラが両親に捨てられてから、ひたすら妹を守ってきた。エスメラルダにとって、プリシラがすべてなのだ。エスメラルダが一番恐れている事は、プリシラにうとまれる事だ。

 優しいプリシラが、エスメラルダを邪険にする事などないだろう。だがエスメラルダはプリシラに少しでも嫌いと思われたら生きてはいられないのだ。

 エスメラルダはプリシラを守るとはいえ、プリシラの想い人であるリベリオを半殺しにしてしまった。もしリベリオがプリシラにエスメラルダの所業を話したら、プリシラはエスメラルダの事を嫌悪するかもしれない。

 そうなる前にプリシラの前から消えてしまおう。プリシラと二度と会う事のない、どこか遠くに。

 エスメラルダは、幸せそうに眠るプリシラのおでこにもう一度キスをした。プリシラがこれからずっと幸せに暮らせるように願いを込めながら。

 エスメラルダはプリシラの枕元で丸くなっている毛玉に声をかけた。

「毛玉、プリシラの事をしっかり守るのよ?さもないと火の玉をぶつけるからね?」

 霊獣の毛玉は、プウプウと鳴いた。まるで、お前に言われなくてもそうするよ、と言っているようだ。

 エスメラルダは安心して部屋を出た。ホテルを出て飛行魔法で空を飛ぶ。ホテルの支払いはすでにしてある。プリシラは何も知らずにマージ運送会社に戻り、仕事をするだろう。

 
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