聖女なんかじゃありません保育士です

盛平

文字の大きさ
3 / 40

ピクニックです

しおりを挟む
 私は大きなリュックサックを背負いセネカとヒミカをうながして歩きだす。町への行き方はセネカとヒミカが知っていた。しかしお母さんが危ないからといって、一度も行った事がないそうだ。町はセネカたちの住む家から山を二つ越えたふもとにあるという。女子供の足で今日中に行けるだろうか。だけどもし夜になっても私の能力ちからでテントを出せるだろうし、食事も心配いらないだろう。夜の森は肉食動物がいるかもしれない、だがセネカとヒミカは狼だ。何とかしてくれるだろう。

 歩き始めて数分、私は体力の無さを実感した。私の職業は保育士で、いつも子供たちを追いかけ回していたから、体力はある方だと過信していた。だけど、山歩きは違うようだ。それに何といってもリュックサックが重すぎる。私がゼーゼー言いながら歩いていると、みかねたセネカがリュックサックを背負ってくれた。重くないかと聞くと、へっちゃらだと返ってきた。お言葉に甘えてリュックサックはお願いしてしまう。

 私は木漏れ日あふれる山道を歩く、鳥のさえずり、草木の香り、こんな気分は久しぶりだ。私は大学を卒業してからずっと働き通しだった。朝から晩までかけずり回って、自宅に着いたら倒れこむように寝てしまう。ずっとそんな暮らしが続いていた。このように穏やかな気持ちで自然に触れるなんて機会なかった。前を歩くセネカとヒミカも嬉しそうだ。お母さんの言いつけを守り、狩をする以外はずっと小屋で息をひそめていたのだそうだ。


 セネカとヒミカは、まるで背中に羽がはえているように軽やかに山道を歩いていく。時おり振り返って私を心配そうに見つめる。私はというと、立ち止まっては歩き、歩いては立ち止まるという動作をずっと繰り返している。セネカとヒミカの心配そうな視線を感じると、笑顔で手を振るが、それも限界に近い。つまり足が棒のようなのだ。

 それから数分して、セネカが駆け寄ってきた。もみじ、お腹減った。元気のいい声だった。私は空腹は全く感じてはいなかったが、とにかく座りたかったのでしょうだくした。ヒミカもおずおず近づいてきたので、ここでランチをする事に決めた。私は大きなレジャーシートを出して、靴を脱いで座りこんだ。セネカは背負っていたリュックサックからスープジャーとおにぎりか入ったタッパーを取り出す。私は麦茶のペットボトルとマグカップを三つ取り出して、マグカップに麦茶を注ぐ。セネカとヒミカは麦茶も初めてのようで、おっかなびっくり麦茶を飲むと、美味しい!といっていっぱいおかわりをしてくれた。スープジャーのもつ煮込みはしっかり温かさを保っていた。朝ごはんもお昼ご飯も同じでごめんねと、セネカとヒミカに謝ると、二人はもつ煮込みとっても美味しいから毎日でもいいも言ってくれ、私を喜ばせた。だけど私が七味唐辛子をかけていてももう味見したいとは言わなかった。お釜で炊いたご飯は冷めてもとっても甘くて美味しかった。

 穏やかな天気の下、美味しいご飯を食べられるなんて、なんてぜいたくなんだろう。お腹もくちてきて、これがピクニックならばランチの後はお昼寝をしたいところだが、私たちはセネカとヒミカのお母さんを探しに行く目的があるのだ。先を急がなければ。私は震えてしまいそうな足を揉みながら、セネカとヒミカに出発しようと告げる。二人は嬉しそうにピョンピョンとびはねた。私は心の中でため息をついた。子供って何でこんなに元気なんだろう。私はレジャーシートと使い終わったスープジャーを消す。私が食べきれなかったおにぎり入りのタッパーと、飲みきれなかった麦茶のペットボトルはセネカのリュックサックに入れてもらった。そして私たちはまた歩き出す。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...