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第6話 すれ違い
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「あの店、夜の9時頃からだっけ。
行ってもいいよな?
マッキーをまた傷つけちゃうかな?」
俺は躊躇いながらも電車に乗った。
ガタンゴトン ガタンゴトン
家路に着くサラリーマンに紛れ、電車に揺られる。
窓に映る男はどこか不安気で、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「情けない顔をしているよな……」
俺は自虐的に呟いた。
今日はタンクトップと半パンじゃない。
上下黒のスーツを着て、ロングコートも羽織ってきた。
……不思議だ。
これが本来の冬の格好なんだよな。
なんだか今日は寒かった。
……体が?
……いや、心が……
心も体も閉じたまま……凍らせたままマッキーに会いに行くのは失礼だと思った。
まずは自分から変わらないと……
信じないと……
俺は窓に映る男に何度も言い聞かせた。
――新宿二丁目
見慣れた街に降り立ち、あの路地裏を目指す。
目の前には彼女へ続く道。
俺は大きく息を吸い込み、路地裏に潜り込んだ。
飲食店が混在する小さなビル。
ゆっくりと階段を上る。
昨日はスッと上れたはずの階段は、一歩一歩がとても重たく感じる。
今日は、あの赤いコートは導いてはくれない。
自分の足で歩かなければいけない。
……引き返すなら今……
俺はブンブンと首を左右に振った。
会いたいんだろ?
……うん……会いたい。
一段一段、ときに深呼吸しながら。
上りきったところで、廊下の一番奥を見る。
「あれ?」
俺は一目散に店の前まで走った。
看板が出てない。
ガチャ ガチャ
「あれっ?」
ドンドン ドンドン
ドアを叩いても反応がない。
俺はドアにもたれ掛る。
俺は沈黙ののち、足の力が抜け、ヘナヘナと廊下に座り込んだ。
「なんでだよ……」
うつむき、そう呟いたその刹那、隣の店の扉が開いた。
ガチャリ
「あら、そんなとこにヘタり込んでどうしたの?」
隣の店から、さゆりママが顔を覗かせた。
「マッキーに会いに来たの?
あのコ、二三日、店閉めるって言ってたわよ。
何も聞いてないの?」
俺はコクリと頷いた。
「あらまあ……
とりあえず、うちの店に入りなさい。
今日は忙しくないから、席もあいてるしね」
俺は言われるがまま、さゆりママのお店に入った。
お店の中は楕円状のカウンターになっており、その周りには10人ほど座れる椅子が囲んでいた。
店内には数人のお客さんが座っており、次々に提供される天ぷらを美味しそうに頬張っている。
カウンターの中心には板さんらしき男性と、娘さんらしい女性が、所狭しと動き回っていた。
「いらっしゃいませー」
カウンターの中の女性が声をかけてくれる。
「らっしゃい」
板さんも天ぷらをあげながら挨拶してくれた。
「うちの娘とその旦那さんよ」
「今晩は」
俺は軽く会釈した。
「マッキーとこのお客さん。
今日、臨時休業って知らずに来ちゃったんだって」
さゆりママが娘さんに説明する。
「なーるほど。
マッキー、ちょっと田舎帰るって、急だったもんね」
「田舎?
淡路島へ?」
「そう。
とりあえず、そんなところに突っ立ってないで座りなさいな」
促されるまま席に座ると、さゆりママも俺の隣に腰掛けた。
「色々と聞きたいことがあるんじゃないの?
今日は私のおごりよ。
私も飲んじゃおうかな」
さゆりママはグラスにビールを注いだ。
「それじゃあ、カンバイ」
「カンバイ」
俺は遠慮がちにコップを口に運んだ。
「なんてお呼びしたら良かったかしら」
さゆりママは笑顔を向ける。
「あっ、挨拶遅れました。
新井・マイケル・良太郎です」
「ミドルネームがあるのね?」
「はい、父方がアメリカ人の血が入ってて、母はアラスカに住むユピック民族なんです」
「あら、だから寒さに強いのね。
昨日はタンクトップに半パンだったものね」
「ハハハハハ」
この人すごいな。
ツッコミどころ満載の俺の話を軽くさばいてきたよ。
「で、マッキーとはどうなの?
付き合ってるの?」
ママがストレートに聞いてくる。
「いえ、一昨日出会ったばかりで、俺が彼女のこと気になってて、一方的に押しかけた感じなんです」
「なーんだ、そうだったの……
……でも……一方的ではないと思うわよ。
昨日ちょっと二人を見ただけだけどね。
あなたのことは気にいってるはずよ……
ただ……」
そこまで口にしたところで、ママは遠い目をした。
「あのコ、元は男性だったでしょ?
色々と辛い思いをしてきたみたいよ。
可愛らしくて、繊細なコなのよね。
まあ、繊細がゆえに傷つくこともたくさんあるんでしょうね」
俺は黙ってさゆりママの話を隣で聞いた。
「それに、お父さんが病気で倒れちゃってね。
喧嘩して淡路島を飛び出してきたもんだから、もう何年も実家に帰ってなかったみたいでね。
この間、お母さんから手紙が届いたんだって」
「それで、急遽、淡路島に戻ったんですね」
不謹慎ではあるが、突然マッキーがいなくなった理由を聞いてホッとしてしまった。
「でもね……
淡路島に帰った理由はそれだけじゃないと思うの」
「他に理由があるんですか?」
「そう……」
さゆりママは空のグラスにビールを注ぐと、グイッとそれを飲み干し、俺を真っ直ぐ見つめた。
「あなたよ……」
突然の展開に俺は頭が混乱した。
行ってもいいよな?
マッキーをまた傷つけちゃうかな?」
俺は躊躇いながらも電車に乗った。
ガタンゴトン ガタンゴトン
家路に着くサラリーマンに紛れ、電車に揺られる。
窓に映る男はどこか不安気で、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「情けない顔をしているよな……」
俺は自虐的に呟いた。
今日はタンクトップと半パンじゃない。
上下黒のスーツを着て、ロングコートも羽織ってきた。
……不思議だ。
これが本来の冬の格好なんだよな。
なんだか今日は寒かった。
……体が?
……いや、心が……
心も体も閉じたまま……凍らせたままマッキーに会いに行くのは失礼だと思った。
まずは自分から変わらないと……
信じないと……
俺は窓に映る男に何度も言い聞かせた。
――新宿二丁目
見慣れた街に降り立ち、あの路地裏を目指す。
目の前には彼女へ続く道。
俺は大きく息を吸い込み、路地裏に潜り込んだ。
飲食店が混在する小さなビル。
ゆっくりと階段を上る。
昨日はスッと上れたはずの階段は、一歩一歩がとても重たく感じる。
今日は、あの赤いコートは導いてはくれない。
自分の足で歩かなければいけない。
……引き返すなら今……
俺はブンブンと首を左右に振った。
会いたいんだろ?
……うん……会いたい。
一段一段、ときに深呼吸しながら。
上りきったところで、廊下の一番奥を見る。
「あれ?」
俺は一目散に店の前まで走った。
看板が出てない。
ガチャ ガチャ
「あれっ?」
ドンドン ドンドン
ドアを叩いても反応がない。
俺はドアにもたれ掛る。
俺は沈黙ののち、足の力が抜け、ヘナヘナと廊下に座り込んだ。
「なんでだよ……」
うつむき、そう呟いたその刹那、隣の店の扉が開いた。
ガチャリ
「あら、そんなとこにヘタり込んでどうしたの?」
隣の店から、さゆりママが顔を覗かせた。
「マッキーに会いに来たの?
あのコ、二三日、店閉めるって言ってたわよ。
何も聞いてないの?」
俺はコクリと頷いた。
「あらまあ……
とりあえず、うちの店に入りなさい。
今日は忙しくないから、席もあいてるしね」
俺は言われるがまま、さゆりママのお店に入った。
お店の中は楕円状のカウンターになっており、その周りには10人ほど座れる椅子が囲んでいた。
店内には数人のお客さんが座っており、次々に提供される天ぷらを美味しそうに頬張っている。
カウンターの中心には板さんらしき男性と、娘さんらしい女性が、所狭しと動き回っていた。
「いらっしゃいませー」
カウンターの中の女性が声をかけてくれる。
「らっしゃい」
板さんも天ぷらをあげながら挨拶してくれた。
「うちの娘とその旦那さんよ」
「今晩は」
俺は軽く会釈した。
「マッキーとこのお客さん。
今日、臨時休業って知らずに来ちゃったんだって」
さゆりママが娘さんに説明する。
「なーるほど。
マッキー、ちょっと田舎帰るって、急だったもんね」
「田舎?
淡路島へ?」
「そう。
とりあえず、そんなところに突っ立ってないで座りなさいな」
促されるまま席に座ると、さゆりママも俺の隣に腰掛けた。
「色々と聞きたいことがあるんじゃないの?
今日は私のおごりよ。
私も飲んじゃおうかな」
さゆりママはグラスにビールを注いだ。
「それじゃあ、カンバイ」
「カンバイ」
俺は遠慮がちにコップを口に運んだ。
「なんてお呼びしたら良かったかしら」
さゆりママは笑顔を向ける。
「あっ、挨拶遅れました。
新井・マイケル・良太郎です」
「ミドルネームがあるのね?」
「はい、父方がアメリカ人の血が入ってて、母はアラスカに住むユピック民族なんです」
「あら、だから寒さに強いのね。
昨日はタンクトップに半パンだったものね」
「ハハハハハ」
この人すごいな。
ツッコミどころ満載の俺の話を軽くさばいてきたよ。
「で、マッキーとはどうなの?
付き合ってるの?」
ママがストレートに聞いてくる。
「いえ、一昨日出会ったばかりで、俺が彼女のこと気になってて、一方的に押しかけた感じなんです」
「なーんだ、そうだったの……
……でも……一方的ではないと思うわよ。
昨日ちょっと二人を見ただけだけどね。
あなたのことは気にいってるはずよ……
ただ……」
そこまで口にしたところで、ママは遠い目をした。
「あのコ、元は男性だったでしょ?
色々と辛い思いをしてきたみたいよ。
可愛らしくて、繊細なコなのよね。
まあ、繊細がゆえに傷つくこともたくさんあるんでしょうね」
俺は黙ってさゆりママの話を隣で聞いた。
「それに、お父さんが病気で倒れちゃってね。
喧嘩して淡路島を飛び出してきたもんだから、もう何年も実家に帰ってなかったみたいでね。
この間、お母さんから手紙が届いたんだって」
「それで、急遽、淡路島に戻ったんですね」
不謹慎ではあるが、突然マッキーがいなくなった理由を聞いてホッとしてしまった。
「でもね……
淡路島に帰った理由はそれだけじゃないと思うの」
「他に理由があるんですか?」
「そう……」
さゆりママは空のグラスにビールを注ぐと、グイッとそれを飲み干し、俺を真っ直ぐ見つめた。
「あなたよ……」
突然の展開に俺は頭が混乱した。
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