えっ!?俺が勇者?断固拒否します!

marry

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第4話 芽生え

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 レグルスが食事を一心不乱で貪る中、エルナとセレスは、なかなかナイフとフォークに手を付けない。

 なんとか一緒に食べてもらいたいなあ。

 無理矢理にとは言わないけれど、さっきエルナのお腹、グーッて鳴ってたよなあ……

 俺はここで話の角度を変えてみる。

「改めて確認なんだけれど……
 エルナは俺のお世話係なんだよね?
 メンタル含めての健康管理。
 それは間違いないかな?」

 コクリと頷くエルナ。

「セレスもそうなの?」

 エルナの頷くだけの淡白な反応と違い、セレスはしっかりと言葉を添える。

「はい。
 姉は勇者様の身の回り、私は家事全般を仰せつかっております」

「兄ちゃん!
 俺も庭の掃除とか手伝ってるんだぜ!」

 レグルスが得意げに口に含んだ食事をまき散らす。

「こら、レグルス!
 口にものが入ったまま喋らないの!」

 セレスはハンカチでレグルスの口元を拭った。

「そうか、レグルス。
 ありがとな」

 俺は隣に座るレグルスの頭を優しく撫でた。

「任せとけって!」

 得意気にレグルスは笑う。

「さっきからあんたは勇者様になんて口の聞き方をしているのよ!
 ちゃんと敬語を使いなさい!」

 余りの自由奔放さに呆れ、セレスはレグルスに苦言を呈す。

「いいじゃんかよー!
 なあ?
 兄ちゃん?」

 レグルスは当然とばかりに同意を求めてくる。

「ハハハハハ」

 俺は声を出して笑ってしまった。

「いい加減にしなさい」

 エルナは落ち着いた声で、ただ一言だけ言い放つ。

 それは静かな一言であったが、確かに威厳のあるオーラを纏う一言であった。

 先程のガヤガヤした雰囲気は一瞬で静寂へと変わる。

 すげーなエルナ……

 俺にも妹がいるけれど、いつも逆に小言を言われてたよなあ……

 俺はフフフと思い出し笑いをした。

 なんとなくだけど、三人の関係性や性格の一端が垣間見れた気がする。

 レグルスはまだ幼いことも手伝って、自由奔放だけど明るくて頑張り屋さん。

 セレスは面倒見がよく、チャキチャキ動くタイプ。

 そしてエルナ……

 物静かでどことなく気品を感じる。

 何も語らず、ただ姫様から命令された通り、忠実に業務を熟す。

 しかし……

 それは偽りだ。

 彼女はあの赤い瞳の奥に感情を隠している。

 曝け出したくても曝け出せない事情……

 奴隷であるが故に語れないことがあるのだろう。

 奴隷落ちした理由も今はわからない。

 これは、ファンタジーアニメ好きのオタクとしての勘であるが、このヴァル=ギルティア王国、ろくな国家じゃない。

 住んでいる全員がそうだとは言わないが、少なくとも王国の中枢に巣食うやつらには必ず裏がある。

「あの……
 あの……
 勇者様」

「ん?
 あ、ごめんごめん」

「も、申し訳ございません。
 不快な思いをさせたこと深く反省いたします」

 思いに耽る様子を見て、どうやらエルナは俺が不快とまではいかないとしても、今の状況に戸惑いを覚えているのではと勘違いしたのかもしれない。

 エルナはスッと腰をあげる。

 そして、俺に体を正対し深く頭を垂れた。

 すると姉の態度を鑑みて、セレスとレグルスも同じように席を立ち謝罪した。

 意に反する謝罪を受けた俺は、これまた全否定する。

 なんだかこっちの世界に来てから否定ばっかりしてる感じがするよ。

 首が疲れて仕方がない(笑)

「いやいやいや……
 別に怒っていたわけじゃないから。
 楽しそうだなって思ってさ。
 みんな、座って、座って」

 俺は三人を席に戻らせた。

「むしろ逆なんだよ。
 こんな離れた土地に来て、俺は不安な気持ちになってたんだよ。
 そんなときさっきのドタバタ劇だろ?
 なんだか心温まるなあなんて思ってさ。
 凄く癒しになったよ。
 さあさあ、早く食べようよ。
 でないとレグルスに全部食べられちゃうよ」

 俺は悪戯っぽくレグルスに微笑みかけた。

「あっ、ひでーな兄ちゃん!
 俺はそんなに大食いじゃないよ!」

 頬を膨らますレグルス。

「だから、レグルス!
 その口の聞き方!」

 セレスがまたレグルスをたしなめる。

 また始まった(笑)

「そうよ、レグルス。
 何度も言わせないで。
 立場を考えなさい。
 我々は奴隷なのですからね!」

「「……」」

 エルナの言葉で再びこの部屋が静まり返った。

「そのことなんだけどさあ……」

 俺はナイフとフォークを置き、少し真剣な顔つきで口を開いた。

「君たちにもいろいろ事情があるのは、なんとなくわかっている。
 今は聞かないでおく。
 だから……
 公の場では勇者様って呼ぶのも仕方がないとは思うけどさ……」

 俺はここで深呼吸した。

 三人は黙って俺を見つめている。

「でも……
 俺たちだけのときは【銀河】って名前を呼んでくれないかな?」

 エルナは驚いた顔をこちらに向ける。

「俺は勇者様って柄じゃない。
 それに、勇者かどうかは置いておくとして、この世界でも【銀河】って名前を呼んでくれる人が少なくとも三人はいてくれるってだけで、頑張れそうな気がするんだ。
 これは命令じゃない。
 お願いなんだ」

 俺はその場に立ち、三人に頭を下げた。

「お辞めください。
 勇者様!」

 思わずエルナは大きな声を出した。

「エルナ姉ちゃん、だから違うって。
 な……
 銀河兄ちゃん!」

「ありがとうレグルス!」

 俺は思わずレグルスを強く抱きしめた。

「痛いよ、銀河兄ちゃん」

「あー、悪い悪い……
 ゴホンッ」

 俺は軽く咳払いをしてその場を仕切り直す。

「と、いうわけだから!
 この屋敷の中では俺のことを【銀河】って呼んでね。
 それから……
 食事の件だけど……
 これからは四人で一緒に同じもの食べよう。
 こうやってテーブルを囲むんだ」

「しかし……
 そんなことが姫様に知れたら、どんなお咎めを受けることか。
 私ども奴隷の食事はパンと芋と決まっております。
 お肉などを口にできるのは、式典などのあとに廃棄となった食べ残りぐらいです」

 ほんとに酷い話だ……

「心配しなくてもいいよ。
 俺から姫様に言うことはないから。
 だいたいさあ、こんなにたくさんの料理をひとりで食べられないよ!
 みんなに手伝ってもらわないと捨てちゃうことになるじゃん。
 国民の税なんだろ?
 もったいないことしちゃダメだ」

 俺の言葉にエルナとセレスが俯いた。

 実情を知っているだけに、複雑な気持ちなんだろう。

 それはわかる。

 恐らくだが、奴隷のみならず、この国の民も、一部の富裕層を除いて、財産や穀物、家畜を国に搾取され続けているのだろう。

 あいつらならやりそうだ。

 俺はおっさん(王様)と姫様の腹黒そうな笑みを思い出して、一瞬嫌な気持ちになる。

「ここにある食事はそういう人々の血と涙の塊なのかもしれない。
 嫌悪感はあるかもしれないが、だからといってこれらの食事に手を付けず廃棄してしまうのは違う気がするんだ」

 今の俺にはどうすることもできない。

 だったら、せめて、並べられた食事はちゃんと残さず頂こう。

 それに俺は内心まだ【勇者】を拒否している。

 この世界の問題はこの世界の人間でなんとかするべきだと思っている。

 悲しいかな、それが現実なんだ。

 俺が口出しするべきではない。

 勇者?

 そんなもの断固拒否だ!

 無理矢理自分に言い聞かせ、ステーキを口に運んだ。

 ―― しかし俺はまだ自分の気持ちに気づいてはいなかった。

 三人の温かさに触れたこの日……

 エルナたちを……

 ……いや、この世界を救いたいという気持ちが、心の中に芽生え始めていたことに。
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